「……い、いい……ですよ……」
遠慮がちな声で、松島和葉がそう呟いた。
「い、いいって……な、何がだよ」
「これ以上、女性に言わせないでください」
背中を向けていた和葉が、急に身体の向きを変えてきた。互いの顔が至近距離で向かい合い、未だかつて経験したことのない異質な空気が生まれる。
松島和葉が何を許可してくれたのか。それぐらいは、今日一日類まれなる鈍感ぶりを発揮してきた春道にもわかる。まさかこんな展開で、初めてのチャンスを獲得できるとは思ってもいなかった。最終確認のため、一応「本当にいいのか」と尋ねる。
「……な、何度も……言わせないでください……た、ただ……」
「た、ただ……?」
「……優しく……してください……私……その……経験が……ないんです……」