業界筋ではレンジの新作『ИATURAL』が、前作『musiQ』のセールスを下回ってることから、いろいろ揶揄する者がいるという。何を馬鹿こいとるのかね。『musiQ』が290万枚(出荷枚数)も売れたこと自体が、おかしいのだ。アレより更に「ポップの本質」を大胆に突き詰めた『ИATURAL』みたいな先鋭的な作品が、140万枚(出荷枚数)近く売れてることの方が「画期的」だろうが。馬鹿め。12・14ツアー最終公演を観てますます、その想いが強まった私である。
ORANGE RANGEのライブを“たぶん”日本一沢山観てる音楽評論家であろう私にとって、彼らのベスト・ライブは4・1幕張メッセ公演だった。その内容は新作DVD『LIVE musiQ』に完全収録されてるのだが、この『musiQ』ツアーで初めてホールを体験したばっかで、いきなり2万人の巨大ライブ。ところが、本人達よりもドキドキしながら観てた私がマヌケに思えるほど、彼らの“純情”は躍動感さえ放ちながら、優秀なポップ・エンターテイメントを魅せつけてくれたのだから本当、嬉しかった。YAMATOが自宅で覚えたての酒を呑みながらメッセの映像を観て、“いいライブっスよね!?”と目を輝かせてたのもよくわかる、素晴らしい出来だったのだ。ちまちましてるように見えて、実は“大会場が似合うレンジ”を既に認知してた私にとって、今回の全公演がアリーナの『ИATURAL』ツアーは、大船に乗った気分で愉しませてもらうだけ――事実、名古屋+大阪+横浜×3の計5本観たのだけれど、どの会場でも“もう愉しくてしょうがないっ?”的なお客さん達の“感じ”が、全てを物語っていた。
さてツアー最終公演の12・14横アリは、まさに“総決算”に相応しい内容だった。誰だ、“年内に解散するかも?”なんてくだらない噂を流したのは。こっからなのよ、ORANGE RANGEは。
それにしても、“3つの顔”を同時にステージで体現できるポテンシャルの高さは、凄かった。いきなりどアタマから「BETWEEN」~「GOD 69」~「キリキリマイ」という大“ヘビー&ラウド・ロック”リビドーを発散したかと思えば、中盤には“メガ・セールス・バンド”の称号に相応しい、大ヒット曲連発の“ポップス空間”を作り上げてしまう。
しかし私がぐっときたのは、そんな両極端な世界観の狭間やラスト3曲で、いびつで変則で実験的だけどもレンジにしか出せない“こんなんだってポップでしょ?”的な『ИATURAL』の楽曲達を、自信を持って披露できた“愉しい覚悟”なのだ。しかもお客さん達は、そんな実はマニアックな楽曲群にもすっかり盛り上がってるのだから。ふふ。
“まずLサイズのTシャツに慣らしといて、徐々に徐々にM→Sと知らない間に変えてっても、気づかれないでしょ”という、極悪NAOTO理論がまさに花開いた瞬間だ。
5人各々の“進化”も、無視できない。これまでYAMATO+HIROKIが担ってた“お笑いキャラ”にも、自らの“熱血キャラ”に加えて照れながらも果敢に挑戦し続けたRYO。そのRYOを温かくフォローしつつ、まだまだぎこちない(笑)ギターや三線を弾くことによって“高まるバンド感”をわかりやすくアピールした、さすが“お人好し王”HIROKI。人間の運動生理を逸脱したダンスに更に拍車をかけ、かつ楽曲に合わせて声質にまで勝手な工夫を施したYAMATOの、見事な“人間ボコーダー”ぶりには、頭が下がったし。MC隊3人は、飛躍的に向上したんじゃないかなぁ。
一方のバンド隊も、ステージの端から端まで出向いちゃう機動力と、音色やフレーズを含めどんな楽曲でも対応して支えるYOHは、本当に恰好良くなった。終演後、“2本使ってたギターの片っぽが壊れちゃいました”と嬉しそうに語っていたNAOTOの、“ギタリストとしての充実”も忘れられない。なんか観る度に“超我流”のアドリブが随所にこっそり増えて、ギターを弾くのが愉しくてしょうがないんじゃないか。今。
でもってこの夜だけのスペシャル曲――“完成した後、嬉しくて4日間聴き続けた”というRYO初のオリジナルで、“尊敬してやまない”C.I.C.のSATOSHI+武史をCD音源同様ゲストで迎えて、YOHも含めた四人組(低音一家)で披露した「盃Jammer」も、美しかったし。アンコールも含めた全26曲中16曲目にして、“興奮しすぎて後が大変でした(脱力笑)”RYOの笑顔が、なんとも微笑ましかった私である。
そしてメンバー全員の自信作「Иatural Pop」がラストで演奏される中、これまたこの日限りの天井から舞い降りた白い風船を手に手に盛り上がるアリーナの光景を目撃した時、ポップでマニアックなORANGE RANGEの“幸福なスタートライン”を、今更ながら改めて見た想いがした。
ORANGE RANGEは、“日本随一のロック・イノベーター”である。以上!