石見守 正成 |
2004-07-05 23:18 |
[進階篇]服部学古典1——敬語
敬語、文字通り話し手が聞き手に対して敬意を表す表現。現代語と同じく、古典でも丁寧語・尊敬語・謙譲語の三種類の敬語がありまする。 古今敬語がよく似ているからは、注意すべき敬語のみ勉強しても宜しい。
1.二方面への敬語 謙譲語と尊敬語を用い、その動作を受ける人と、動作をする人を同時の敬意を表す表現。つまり、主体・客体ともに高位の場合、謙譲語と尊敬語同時に使うのこと。謙譲語により客体への敬意を、尊敬語により主体への敬意を表す。二方面への敬語は必ずにも謙譲語+尊敬語の順番。
品詞構成によると、二つの形がありまする。 <ア>謙譲の動詞+尊敬の補助動詞 月日経て、若宮参りたまひぬ。(源氏物語・桐壺) 「参り」が謙譲の動詞で、帝に対する敬意を表す。 「たまひ」が尊敬の補助動詞で、若宮に対する敬意を表す。 <イ>謙譲の補助動詞+尊敬の補助動詞 母后世になくかしづき聞こえたまふを、(源氏物語・桐壺) 「聞こえ」が謙譲の補助動詞で、母后を低めて作者の四の宮に対する敬意。 「たまふ」が尊敬の補助動詞で、作者の母后に対する敬意。
2.二重敬語 名前から考えて、尊敬を二つ重ねて用いることによって、動作主に対して最高の敬意を表すこと。「尊敬語+尊敬の助動詞」の形が多い。 二種づつ合はせさせたまへ。(源氏物語・梅枝) 「させ」が尊敬語、「たまへ」が尊敬の助動詞で、六条院に対する高い敬意。
3.絶対敬語 特定の人物にだけ用いる敬語。天皇・上皇に対しては「奏す」、皇后・中宮・皇太子に対しては「啓す」を用いる。「御幸・行幸」は天皇・上皇のお出まし、中宮・皇太子に対しては「行啓」でありまする。
さあ、ちょっと練習しましょう。次の文章を読んで、太字のところの敬語が尊敬語かそれとも謙譲語、誰の誰に対する敬語か。 ^_^
いづれの御時にか、女御、更衣あまた(帝ニ)さぶらひ たまひける中に、いとやむごとなききはにはあらぬ(方ガ)が、すぐれて時めきたまふ(方「=桐壺更衣」ガ)ありけり。はじめより「我は。」と思ひあがりたまへる御方々、めざましきものにおとしめそねみたまふ。同じほど、それより下﨟の更衣たちは、ましてやすからず。朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふつもりにやありけむ、(この方「=桐壺更衣」ガ)いとあつしくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、(帝ハ)いよいよあかずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえはばからせ たまはず、世の例にもなりぬべき御もてなしなり。上達部、上人なども、あいなく目をそばめつつ、「いとまばゆき(帝ノ)人(この方「=桐壺更衣」ヘノ)の御おぼえなり。唐土にも、かかることの起こりにこそ、世も乱れあしかりけれ。」と、やうやう天の下にもあぢきなう、人のもてなやみぐさになりて、楊貴妃の例も引きいでつべくなりゆくに、(この方「=桐壺更衣」ハ)いとはしたなきこと多かれど、かたじけなき(帝ノ)御心ばへのたぐひなきを頼みにて、交じらひたまふ。 (この方ノ)父の大納言は亡くなりて、母北の方なむ、いにしへの人のよしあるにて、親うち具し、さしあたりて世のおぼえはなやかなる御方々にもいたう劣らず、何事の儀式をももてなしたまひけれど、(この方二ハ)とりたてて、はかばかしき後見しなければ、事ある時は、なほよりどころなく心細げなり。
(源氏物語・桐壺)
主な敬語 動詞: 品詞--尊敬語--謙譲語 与ふ——給ふ(賜ふ)、賜はす、賜ぶ——奉る、まゐる、まゐらす 行く——おはす、おはします——参る、まうづ 来——おはす、おはします——まかる、まかづ 言ふ——仰す、のたまふ、のたまはす——聞こゆ、聞こえさす、申す、奏す、啓す 思ふ——思ほす、おはす、おぼしめす——存ず 聞く——きこす、きこしめす——うけたまはる 食ふ、飲む——めす、まゐる、たてまつる、きこしめす——なし 仕ふ——なし——侍る、候ふ、仕うまつる 呼ぶ——召す——なし 着る——めす、まゐる 、たてまつる——なし 見る——御覧ず——なし す——あそばす——つかうまつる、まゐる 寝、寝ぬ——大殿籠る——なし あり、をり——います、いますがり、おはす、おはします(いらっしゃる)——はべり、さぶらふ(いさせれいただく)
補助動詞: 尊敬語——謙譲語 たまふ(四段)、おはす、ます、めす、おはします——たまふ(下二段)、まうす、きこゆ、たてまつる、まゐらす
助動詞(尊敬語のみ) る、らる、す、さす、しむ
解説: [sp] 1. いづれの御時にか、女御、更衣あまた(帝ニ)さぶらひ たまひける中に・・・
さぶらひ:謙譲の動詞{、四段活用「候ふ」の連用形「候ひ」}。作者が桐壺帝に対する敬意を表す。 たまひ:尊敬の補助動詞{、四段活用「給ふ」の連用形「給ひ」}。作者が女御・更衣に対する敬意を表す。
2. いとやむごとなききはにはあらぬ(方ガ)が、すぐれて時めきたまふ(方「=桐壺更衣」ガ)ありけり。
たまふ:尊敬の補助動詞{、四段活用「給ふ」の連体形「給ふ」}。作者が桐壺更衣に対する敬意を表す。
3. はじめより「我は。」と思ひあがりたまへる御方々、めざましきものにおとしめそねみたまふ。
たまへ:尊敬の補助動詞{、四段活用「給ふ」已然形(命令形)「給へ」}。作者が御方々に対する敬意を表す。 たまふ:尊敬の補助動詞{、四段活用「給ふ」終止形「給ふ」}。作者が御方々に対する敬意を表す。
4. (帝ハ)いよいよあかずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえはばからせ たまはず、世の例にもなりぬべき御もてなしなり。
思ほす:尊敬の動詞{、四段活用「思ほす」の連用形「思ほし」}。作者が桐壺帝に対する敬意を表す。 せ:尊敬の助動詞{、「す」の連用形「せ」}。作者が桐壺帝に対する敬意を表す。 たまは:尊敬の補助動詞{、四段活用「給ふ」の未然形「給は」}。作者が桐壺帝に対する敬意を表す。
5. (この方「=桐壺更衣」ハ)いとはしたなきこと多かれど、かたじけなき(帝ノ)御心ばへのたぐひなきを頼みにて、交じらひたまふ。
たまふ:尊敬の補助動詞、四段活用「給ふ」の終止形「給ふ」。作者が桐壺更衣に対する敬意を表す。
6. (この方ノ)父の大納言は亡くなりて、母北の方なむ、いにしへの人のよしあるにて、親うち具し、さしあたりて世のおぼえはなやかなる御方々にもいたう劣らず、何事の儀式をももてなしたまひけれど、
たまひ:尊敬の補助動詞、四段活用「給ふ」の連用形「給ひ」。作者が桐壺更衣の母に対する敬意を表す。 [/sp] |
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