我が子よ
よくお聞きなさい
これから聞かせる話は
とても大切なこと
私たちがここから始める 親から子へと
絶えることなく伝えていく
長い長い旅のお話なのですよ
腹減った
あぁ～腹減った
さっきからそればっかり
歩くの遅いよ もうちょっと早く歩きなよ
おい お前ら
はぁ？
お前ら ラーメンセットというメニューを知っているか
お兄さんは今猛烈に腹が減っている
ラーメンセットがせがひでも食いたいんだ
だが、残念ながら、金がない
そこでな
さぁ、楽しい人形劇の始まりだ
お代は観てのお帰りだぞ？
うわ
どうだ？すごいだろう？面白いだろう？楽しいだろう？
何だ？これ。きたねぇ人形
かっこう悪い～
なんかほかにできないの？
ぐり～ぐり～
子供が素直などが一番だぞ
遠慮なくお代を払ってくれていいからな
だから素直にかっこう悪いって言ってるの
こんなんでお金なんか払えっぽねぇだろう
バカじゃないの
お前らな～！！
逃げろ～
待ってよ、お前ら
あつ...
ラ、ラーメンセット
にはは
こんにちは
何だ、こいつ
おひとりですか？
暑いですね
なんだ、何が目的だ
金か、金ならないぞ
のど渇いてませんか
買ってきますね
はい
苦労したな
が、がお
どうしてそういうことをするかな
からかってるだろう、俺のことを
そんなことないですよ
おいしいんですよ、これ
浜辺行きませんか？
なんで
遊びたいから
はぁ？
昨日、あの浜辺で遊んでたんですよ、子供たちが。
楽しいそうだな、私も遊びたいなってずっと思ってたんです
あなたが寝てる隣で
見てたのか
昨日からずっと寝てましたよね
起こそうと思ってつついたりしてたんだけど
全然起きる様子がなくて...
腹が減って動けなかったんだ
どこへ行くんですか
仕事だ
お仕事？どんな？
人形劇の...
ない！
そんなに大事なものなんですか
商売道具だ
暑いだろう？もういいから帰れよ
あっ
あぁ、あった
カラス～カラス～
そっちかよ！
よかったですね
あぁ、よかった。おまえのおかげだ。
これで遊べますね、私と。
どういうつもりだ
さきからなんで俺にまとわりつく？
だから砂浜で遊ぶの
かけっこしたり、水の掛け合いしたり
そして最後にまた明日ってお別れするんです
それでまるで友達じゃないか
そう、友達
私たち、友達
にはは
だから遊びたいな
まだお互い名前も知らないんだぞ
わたし神尾観鈴、あなたは？
国崎往人...じゃなくて
俺は仕事があるんだ
腹が減ってるんだ、金が稼がなきゃならない
はぁ、それなら...
食い物に釣られて、のこのこついてきてしまった
二人でご飯っていいよね
いつもは一人なのか
お母さん帰り遅いから、お父さんいないし
食べ終わったら遊ぼうね
だめだ、遅くなると宿が決め難くなる
泊まるとこる決まってないの
あぁ、どうせ野宿だけどな
うちに泊まって
あのな、俺たちは今日会ったばかりだぞ
うん
しかも俺は何処の馬も骨ともつかない素性の知れん男だ
うんうん
んなやつ泊めるか、普通。
第一、母親が許さないだろう
お母さんすごくだらしない人だから問題ないと思う
って自分の親をそんな風に言うもんじゃないか
でもほんと泊まっても大丈夫
疲れてるんだ、遊ぶ元気はない
じゃ、遊ぶのは明日でもいいから、
夏休みだから、時間たくさんあるから
だめだ
が、がお
ね、数学って何の役に立つと思う？
二次函数とか将来役に立つ？
知るか。
だいたいなんで俺がおまえの宿題手伝ってるんだ
おい、目が近いぞ
にはは、往人さんお母さん見たいのことを言う
そうか
あっ
あっ、お母さん帰ってきた
おい
おい
バイクで納屋に突っ込んじゃったの
大丈夫、いつものことだから
本当に俺がいていいのか
うん、私がうまく話すから
却下
話が違うじゃないか
問答無用や
こんな若い男泊められるわけあらへんやろう
が、がお
ふん、そんな口癖やめっていうってやろう
あんた観鈴とはどういう関係や
や、クラスメート
はあ、えらい年食っとるんやないか
惚れるなよ
惚れるか
ま、胆はすわっとるようやし
そのへんは嫌いやないわ
そうなの、往人さんすごくいい人
わかった、泊めたる
マジか
マジもマジも大マジや
ただし、条件が二つ
寝る場所は納屋や
それから酒に付き合い
でな、そしたらその男最後にこう言うたんや
結局、ほれていたのは僕のほうかもしれないって
なぁ～これどうや、うちの勝ちやろ
せやからうちが言い返したったわ
逃がした魚は人魚やで
どないやーっ！これ利いたやろーっ！
なんでこうなるんだ
お母さん 絶好調
おい、居候
なにしげな顔をしとるんや
あんたもなんかしたらんかい
目...
往人さん
したらんかいって何をすればいいんだ
何でもええね エロティックな告白でも隠し芸でも
そうか
それなら...
あっさきの人形
うわ、すごい
俺はこの芸で金を稼でるんだ
俺の母親もこれを生業にして旅をしてきた
これオチないんか
あかん、あんたセンスないんや
でもすごいよね、タネも仕掛けもないのに
関係あるかい、
糸で吊ってるんが見え見えでも、おもろいほうがええわ
寝る
うわ、自ら納屋へ行こうとしてるし
別にそんな才能なんてなくてもええやん
飲んで忘れよ 飲んで
うちは晴子言うね、神尾晴子や
もう一杯くれ、おばさん
そう呼ばせへんとこ大もて名前教えてやったんないか
気きかん男やな、ったく
で、あんた家出か
旅をしてるんだ
目標とか夢でも追いかけとるんか
そうかもな
若いんやな
あんたよりはな
が、おもろいやっちゃな、あんた
そうか
うち、こうみえても男を見る目はあるつもりや
しばらくおいたってもええけど
頼みがある
この子の面倒を見てくれへんか
うん？
この子、ちょっとあぶなっかしいとこあるやろ
そそっかしいし、もろいもを見たら鉄砲玉みたいに飛んでくし
俺は 子守りか
あと、この子の口癖を言うたときも直してもらえへんかな
がおって言うやろ
困った時や泣きそうな時に
恐竜の鳴き声の真似なんや
この子 恐竜が大好きでな
子供のころからの口癖なんや
今でも子供や、この子は
何だお前、夏休みじゃないのか
にはは、私実は補修
晴子はもう出かけたのか
うん、毎朝早いの
一人じゃない朝ご飯久しぶり
往人さん今日はどうするの
とりあえず学校まで送って行く
晴子に頼まれてるんだ
お前がバカなことを仕出かさないように見張ってろって
私ってまるで信用なし
がお～
できた、この町の地図
はやいんな、おまえ
これで人が集まる場所とかわかるはず
お仕事の参考になるよね
あぁ、助かる
あっ遅れちゃう
観鈴ちんピンチ
帰りも迎えにくるからな、ここで待ち合わせだ
うん、にはは
V
なんだ、こりゃ
これがあいつの心の世界なのか
ピコ
何だお前
ピコピコ
この町とくさの伝説上の生物か
ピコピコピコ
もしそうなら
おとぎ話みたいに恩を売ったら見返りを期待してもいいはずだな
ピコピコピコ
よーし、こっちに来い、いいものを見せてやる
ピコ ピコピコ ピコ ピコ
どうだ 思わず恩を返したくなるようなすばらしい芸だろう
ピコ ピコ ピコ ピコ
ピコー
あーっ！
ピコ
こら！
ピコピコピコ
待って
ピコピコピコ
ピコ
ピコ
ピコ
ピコピコ ピコ
ピコピコ
勘弁しろ 悪の宇宙生物め
ピコ...ピコ...
ピコ
逃がすかー
ピコ
なにしてるの
なぞの地球外生物が俺の人形を持ち逃げしたんだ
ピコ
これのこと？
ポテトは地球外生物じゃないよ
うちの近所の野良犬くんだよ
やっぱり犬なのか？そいつ
ピコ ピコピコ
うんうん
はっ？
ピコピコ ピコピコピコピピッコリ
うん、うん、そうか、それはまたご迷惑をかけしました
なぜ謝る
だってポテトがお人形をここまで持って来ちゃったって
君と遊びたかったみたい
ピコピコ
言葉がわかるのか、そいつの
うん、親友だよ
ねぇ、ポテト
ピコピコ
世の中にはまだ俺の知らない世界があるらしいな
すまない
怪我でもしてるのかい
ああ、これ？
えっとね、
だめ、やっぱり秘密
私、霧島佳乃、君は？
国崎往人
もしかして暇なの？
まぁ
よーし、君のことを暇暇星人２号に任命するよ
１号は誰だ
私
で、ポテトは３号さん
ピコ
暇暇星人は何をするんだ
ただ暇なだけ
それが暇暇星人の宿命なの
ね、暇だね、ポテト
ピコピコ
私これから学校行かなきゃ、だからここでさようなら
暇暇星人じゃなかったのか
そんなこと信じてたの？子供
じゃね
あの制服を着てる奴はへんなのばっかなのか
ね
なんだ
魔法が使えたらって思ったことないかな
はぁ？
びっくりしてる
じゃね
魔法？
往人さん
お仕事どうだった？
大繁盛だ
ふわ、ほんとうに
すいません、嘘です
もっと賑やかな場所を見つけないと商売にならないな
ってなんで通勤時間なのにこんなに静かな佇まいなんだ
だってこの駅もう廃線になってるもの
それを早く言え
が、がお
痛い
どうして叩かれるかな
晴子に言われてるんだ
その口癖を言ったら注意してくれって
可愛い、にはは
遠野さん
知り合いか
うん
うわ、わ、わっ
何焦ってんだろ、お前
こんにちは
こんにちは、奇遇ですね
あ、はい、すごい偶然、にはは びっくり
何してたんですか
日光浴
えっ
なっちゃって今は夕方
おい、なんだこいつ
遠野美凪さん、私のクラスメート
頭いいの 成績学年トップで天文部の部長さん
私のことはなるべく遠野と呼んでください
おい、美凪
うわ、往人さんが木の葉のように
ねぇねぇ、早くシャボン玉の続きをしよう
今ね今ねみちる絶好調なの、ねぇ～
その女の子、妹さんですか
違うよ みちるは美凪の親友だよ
お姉ちゃんは誰かな
私は遠野さんのクラスメート
痛かったぞ
何だよ、お前も美凪のクラスメートか
お前に突き飛ばされた善良の通行人だ
わかった、美凪 こいつみちるたちをさらいに来た変態誘拐魔だよ
私もこち側
誰が誘拐魔じゃ
やばい、興奮してる
乙女のピンチ
わ、すごい音をした
神尾さん、この人は
国崎往人さん
旅人さんで今うちで泊まってくれてるんです
旅人さん
変態誘拐魔で宿無しなんて救いようがないね
神尾さん、私たち、そろそろ
へぇ？せっかくうまくシャボン玉飛ばせてたのに
続きしようよ 神神も一緒に
神神 私？
もう暗くなるから、また明日にしよう
お弁当作ってくるから
じゃね、かみや
バイバイ
国崎往人
おお
お前はどっかいっちゃえ べぇ
なにを
ねぇねぇ、明日のお弁当、ハンバーグ作ってくれる
うん
ほんとう？やった
俺、あのがきになんかしたか
わかんない
結局、一円も稼げなかったんだ
昨日会ったときもそこでそうしてたのか
空にはね
小さいころからずっと思いを馳せてた
どうして
わかんない
ただ、もう一人の自分がそこにいるそんな気がして
それってロマンティックだよね
本当の自分が空にいるなんてすごく気持ちがよさそう
遠くまで見渡せて
地上にいることなんて
全部ちっぽけに見えて
きっと すごく優しい気持ちに慣れるんだよね
観鈴
お前は
それは俺にとって
星の瞬きように短く
そして永遠のように長い夏の始まりだった
俺が探しているのは
もう一人のお前かもしれない
うち親なんかに向いてないね
ずっと一人でおればよかったわ
夢を見たの
不思議な夢
空の夢
自分は空にいるの
それは見たこともない世界
どこも無限に広がってる
なぁ、夢の中のお前には、翼はあるか