大学在学中から、メカデザイナーとして頭角を現し、20代初期でTVシリーズ『超時空要塞マクロス』に登場する“バルキリー”をデザイン、実機のようなリアルな戦闘機がロボットに完全変形するメカニズムを世に送り出し、可変ロボットデザインの第一人者となった河森正治。若干24歳にして劇場作品『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』で監督デビュー。以後も数々のアニメ、ゲーム、他でもメカデザインを担当。『マクロスゼロ』『創聖のアクエリオン』などの話題作を発表し続けている。その河森正治が、「マクロス」25周年を記念して、満を持して世に送り出したのが、4月から放送中の『マクロスF(フロンティア)』だ。今年最大のヒット作と言っても過言ではない『マクロスF』が、いよいよ9月末、最終回を迎える。
「歌」「バトル」「三角関係」という「マクロス」のエッセンスをたっぷり盛り込んで、アニメファンをテレビの前に釘付けにした本作。最終回に迎けての展開とは? 総監督・河森正治が描きたかったテーマとは? 誰もが気になっている『マクロスF』のあれこれについて語っていただいた。
──今回25周年記念で制作された『マクロスF』ですが、これまでの「マクロス」シリーズと比較すると、どのような位置づけになりますか?
河森正治総監督(以下 河森):OVA『マクロスゼロ』を作っている時から25周年に向けて、何かやらないかという話はもう出ていました。“やるんだったらTVシリーズ、TVシリーズだったら宇宙空間が舞台”というのはもう決めていたんですね。大気圏内の描写は難しくて、かなりじっくりやらないと嘘だらけになってしまうので、時間をかけて作ることができるOVAで『マクロスゼロ』は作ったんですが、今回の『マクロスF』はTVシリーズなので宇宙空間を舞台にしました。「マクロス」の場合はこれまで何本もやっているんですけれども、毎回とにかく前と違うことをやる、同じことを二度やらない、と自分では決めていたんですね。でも周り中からそろそろ普通に作ってくれないか(笑)という要望がありまして。ひとつ前のTVシリーズは『マクロス7』ですが、『マクロス7』よりさらにひねるともはや「何だろうか?」ということになってしまうし(笑)。それに25年――四半世紀が経ったということで、一区切りとして総決算的なことをやってもいいかなと思いました。でも総決算といっても時代がだいぶ変わってきたので、生活感にしても何にしてもかなり違った雰囲気が見せられるのではないかな?と思ったんですね。
──では今回の『マクロスF』で描きたかった、他の作品と違うテーマのようなものは何でしょう?
河森:まず25年前と今で一番違うのは、とにかく放送されるアニメの作品数が多いんですね。『マクロス7』の時代ならば、「マクロス」というタイトルさえついていればいいや(笑)という感じで、歌を出していれば他のマクロスシリーズと極端に変えても大丈夫だったんです。ですが今では、このタイトルをつけた以上、そのタイトルの枠組みの中でやらないと、作品数が多すぎるから何の作品か分からなくなる。それを外れてしまうと「じゃあ別のタイトルでいいじゃん」ということになってしまう時代なんだと思いましてね。それなら原点に戻って「歌」と「可変戦闘機」と「三角関係」、この3つを今風にやったらどうなるかと、改めてやった感じです。その上で「大宇宙航海時代の移民船団」という設定にしてみました。もともと「マクロス」はカルチャーショックがテーマになっている部分があるので、そこをより強調してできないかなと。強調というより「異質なものとの出会い」みたいなものを、もう一回やろうという感じですね。
──最終回直前まで来ていますが、当初思い描いていたプランのようなものは思い通りに進められたんでしょうか?
河森:そうですね。思い通りにいけたところと、こうすれば良かったと思うところと、色々あります。……ぶっちゃけて言うと、毎回45分欲しいですね(笑)。やる内容が、「歌」と「戦闘」と「三角関係」という3本立てなので、20分だとそのうちのどれか1つか2つにスポットを当てて、1つは控えめにしないと入りにくいんです。全部本気で詰め込める回というのは25本あっても、3、4回しかないって感じです。でも45分あればそれができる。自分が完全に実写のドラマシリーズのようなスタンスになってしまっているので、尺が足りないんですよ(笑)。そこが一番心残り、というよりも、TVとしてしょうがない宿命ですよね。かといって、前後編で分けたらこのムードが出ないところもいっぱいあって。その分、3つをきっちり組み込んだ回というのはいい感じに仕上がったかなと思っています。
──第1話の「ヤックデカルチャー版」だと32分ぐらいありますよね。
河森:あのぐらい毎回あると心おきなく作れるんですけど。入んないんだよなーこれが(笑)みたいな。
──泣く泣くカットしたシーンもたくさんあるんですか?
河森:シーンというよりもエピソードが大量にあります。思いついたものの半分も入っていないんですよ。「歌」がかかるとその分尺がかかるし、歌の間はちゃんと歌も聞かせないといけないので、セリフをかぶせにくいんですね。どっちつかずになってしまうので、バランスをとろうとすると、セリフが入れにくくなる。そこで絵コンテ段階で工夫して歌の流れとドラマやセリフの流れを立体的に配置してゆくんです。そこがうまくいった回はやっぱりいい出来だし。あともっと尺が欲しかったなあ(笑)。それが大変でしたね。
──今後のストーリー展開について、目指すものとは?
河森:バジュラという存在自体が、キーになってきていて。それとランカとの関係だったり、シェリルとの関係だったり、色々なものと関係している。そういったものの決着とかが、「異質なものとの出会い」のポイントになります。本当に最終回ギリギリまでいかないと明かせないネタが、そこにあるので。それが観る人にうまく伝わるかどうか、一種の賭けみたいなものですが。それって言葉とか理屈で言ってしまうとどうということはないんだけれども、体感として伝わるかどうか、賭けているところです。
──その点が今後の展開での一番のこだわりの部分になりますか?
河森:そこが『マクロスF』という作品で一番こだわっている部分だし、『マクロスF(フロンティア)』の「フロンティア」というタイトルをつけた理由がそこにはあるんです。本当に色々な意味で付けているので、そこを想像していただけると楽しいかなと思います。
──24話から25話のつながりの展開が一番のポイントですか?
河森:そうですね、……オセロゲームってあるじゃないですか。最後の一手で全部がひっくり返る感覚。それが好きで(笑)。今回もそうなるといいなと思っているんです。ただ、観る人がついてきてもらえるかどうか……。
自分の中の理想型は「ジグソーパズルなんだけど、オセロゲーム」のような展開です。ジグソーパズルはピースをはめていくと結果が見えちゃうからつまらないけど、ピースをはめたとたんに絵柄が変わる、そういうジグソーパズルが出来たらいいな、といつも思っているんですね。だから、劇中のさりげない一言だったり、ちょっとした表情を見落とすと、意味が反転するように作ってしまっているんです、意図的に。だから、相当誤解されてもいい作りにしちゃっています。言うべきなのかどうか分からないけども、極端に言うと、ある意味“誤解”がテーマな作品でもあるので。現実って本当に色々な意味で誤解が生まれやすいじゃないですか。先入観とか、思いこみとか。
『愛・おぼえていますか』の後、一人旅で中国の少数民族のところ、内モンゴル、シルクロード、雲南省と巡ったんですけども、その時のカルチャーショックがあまりにも大きくて。自分の中で、『マクロス』とか『愛・おぼえていますか』とかカルチャーショックをテーマにした作品を作っておきながら、隣の国で、こんなにカルチャーショックを受けていていいのだろうか、みたいな。そこで、「均一社会的教育」とテレビとかメディアの力によって、そう思いこまされていた自分というのにびっくりして。日本自体が箱庭というか、まだ鎖国していたんじゃないかと思うぐらいに(笑)、情報菅制がひかれているというか。
そんな気がして作ったのが『マクロスプラス』でシャロン・アップルが催眠音楽を使うというシーンだったんですね。自分は完全に欧米型のものの考え方の催眠状態にあった。強力な催眠にかけられていた。それをテーマにしたのが、『マクロスプラス』だった。『マクロス7』でも一部使っているんですけれども。でも今、その催眠が解けるどころか、どんどん強化されている感じがするんですね。それで今回はフロンティア自体ガラス張りのビニールハウスのようなデザインの船団にした。その温室が破られた時に何を見るか、みたいな物語にしているつもりなんです。
──その穴を空けるのが、バジュラだったんですね。
河森<:そうです。本当に、菅野さんのすごくいい歌を使えて、May'nちゃん、愛(めぐみ)ちゃん、二人ともにすごいくいい歌を歌ってもらえて、となってくると、音楽の力って一歩間違えると、催眠になっちゃうんですよね。その催眠ってかけるのは簡単でも解くのは難しいって言われている。それが“解ける”方の作品になったらいいなというのが、願いですよね。それができるかどうかというのは本当に分からないし、自分も中国の奥地に行くまで解けなかったし、それで全部解けたかというとそんな保証は全然ないし。そのぐらい文化的な催眠というのは根強いですよね。
日本自体も、第二次世界大戦の前と後では別の国かというぐらい考え方から何から変わってしまった。それが10年も続けば、変わったことさえ忘れて、風化してしてしまう。だから、『マクロスF』の展開は自分の価値観が絶対と思っている人には受け入れられないかもしれない、自分の価値観に流動性があると思っている人には、受け入れてもらえるかもしれない。そこが賭けみたいなところがありますね。賛否両論、全然分かれても構わないし、分かれるところまで伝わるかどうかも分からないですし。
──『マクロスF』最終回直前で、見どころとファンのみなさんへのメッセージをお願いします。
河森:最終回ですね。絵コンテが大変でした(笑)。こんなに手間かけた作品もあんまりないなというくらい、TVとしてやれる限りのことにチャレンジした感じですね。本当にオセロゲームみたいになるといいな(笑)。頭の中じゃなくて、体の奥の方で、ピタっとターンするかどうか。みんながターンしないかもしれないけど、何人かに一人はターンして欲しいなと思います。上がってみないと分からないですが。楽しみにしていてください。
河森総監督のインタビューの続きは、10月に掲載予定の『マクロスF』特集第2弾で!
お楽しみに!!