嗯..其实我倾向于tx版的翻译...不过,其实我觉得,第一句啊..是不是反问句呢?而译者是直接将之译出来,而没有用反问的形式?
ps:顺便附上全部的序章吧~
序章
世界の果てには虚海と呼ばれる海がある。この海の東と西に、ふたつの国があった。常には交わることなく、隔絶されたこの二国には、ともにひとつの伝説がある。
──海上遥か彼方には、幻の国がある、と。
そこは選ばれた者だけが訪ねることのできる至福の国、豊穣の約束された土地、富は泉のように湧き、老いも死もなく、どんな苦しみも存在しない。一方の国ではこれを蓬莱と呼び、もう一方の国ではこれを常世と呼んだ。
互いに異界に隔絶されたその二国、蓬莱国と常世国の双方で、ひとりの子供が目を覚ました。──ともに深夜のことである。
※
彼はふと、話し声で目を覚ました。暗闇の中、ぼそぼそと声が這う。父親と母親の声が家の外から聞こえたのだ。
家といっても、四本の棒の間、壁と屋根の代わりに筵を張っただけの粗末なものだ。寝床は土の上、虫の音が盛んな頃だけれども、くるまる布さえない。間近の兄姉の体温だけがよすがの寝床だった。以前住んでいたのはもっとましな家だったが、その家はもうない。焦土と化した都の隅で灰になってしまった。
「……しかたない」
父親の声は低い。母親は、でも、と口ごもった。
「そりゃあ、一番下だけれども、あの子は聡いから怖い」
彼は闇の中でぴくりと体を震わせる。自分のことを話しているのだと分かって眠気が飛んでいった。
「だが……」
「分別もあるし、知?#123;もまわる。同い年の他の子は、まだろくにしゃべれもしないっていうのに。まるでどこかから下されたみたいで」
「そりゃあ、そうだが。しかし、それにしたってまだまだ子供だ。きっとなにが起こったか分からんさ」
「そうじゃなく。あの子を死なせたら祟りそうで」
子供は襟をかきあわせる。暗闇の中で小さく丸くなって眠ろうとした。ふたりの声を聞いていたくなかった。彼は生まれてまだ四年と少ししか経っていなかったけれど、何の話なのか分かってしまったので。
声は続いていたが、彼は強いて聞かないようにした。意識から追い出して、無理にも眠りに落ちていく。
父親が、坊、と顔をのぞきこんできたのは、その二日後だった。
「お父は用事に行く。坊もいっしょに行くか?」
どこに、とも、なんで、とも彼は訊かなかった。
「うん。いく」
そうか、と父親はどこか複雑そうな表情で手を差し出した。彼はその手をしっかり握った。大きな手のごつごつした感触に包まれて、家を離れ、一面の焼け跡を歩いた。衣笠山からさらに奥に分け入り、斜面を何度も登り降りして、さすがの彼もどこから来たのか分からなくなった頃に、父親はやっと手を放した。
「坊、ここにいろな。すぐに戻る。待ってろ」
うん、と彼はうなずく。
「いいか、動くんじゃねえぞ」
うん、ともう一度うなずいて、何度も振り返りながら林を去っていく父親の背を見送った。
──動かない。かならず、ずっとここにいる。
彼は拳を握って、父親が姿を消した方向を見つめていた。
──ぜったい、家にかえったりしないから。
その誓いのとおり、彼はその場を一歩も動かなかった。夜になればその場に眠り、ひもじくなれば手の届く範囲の草をむしって根を掘った。飲むものは夜露でこらえた。三日目には、動きたくても動くことができなかった。
──大丈夫、ぜったい、もどったりしない。
戻れば両親が困ることを、彼は理解していた。
都は燃えつき、あたりは死者の骸で敷き詰められた。父親を雇っていた男は西軍の足軽に殺された。職もなく、家もない一家がこの先生きていくためには、働くこともできず、ただ食べるだけの子供を、ひとりでも減らさなくてはならないのだ。
彼は目を閉じ、意識が混濁するにまかせた。眠りに落ちる前に獣が草をかき分けるような音を聞いた。
──ここで、待ってる。
一家がなんとか生き延びて、落ちついて、幸せになって、それでふと彼のことを思い出して、弔いのためにやってきてくれるのを待っているから。
いつまでだって、待っているから。
※
彼は夜中に目を覚まして、人の話し声を聞いた。眠くて眠くて、どんな話だかは聞き取れなかった。ただ、母親がみんなから責められているのだということだけが分かった。助けてあげなきゃ、と思いながらまた眠りに引き込まれてしまった。
その翌日、母親に手を引かれ、子供は里を出た。
彼には父親がいない。母親は、父親は遠くの国へ行ってしまった、と教えてくれた。住んでいた廬が焼け、母親と彼は里に行って、里の隅の土の上で眠るようになった。たくさんの人間が集まっていたが、ひとりずつ欠けていって、やがてはほんの数人になった。子供は彼だけだった。
母親を除く大人たちは、彼に冷たかった。いつも邪険に殴られ、冷たい言葉を浴びせられた。特に彼がひもじいというと、必ずそうなのだった。
母親は彼の手を引き、声を殺して泣きながら、焼けただれて荒れ果てた田圃の中の道を歩いた。やがて山に入り、林の中を分け入っていった。こんなに遠くまで、彼は来たことがなかった。
林の中で、母親はやっと彼の手を放した。
「ちょっとここで休もうね。……水はほしくない?」
喉が渇いていたので、彼はうなずいた。
「いま水を探してくるから。ここで待っていておくれねえ」
歩くのにも疲れていたので、母親がいなくなるのは不安だったけれど、うなずいた。母親は何度も彼をなでて、そうして突然離れると、小走りに林を駆けていった。
彼はその場に座り込み、やがて母親が帰ってこないのに心細くなって、母親を探して歩き出した。母親を呼びながら、つまずきながら林をさまよったけれども、彼には母親の行方も帰り道も分からなかった。
寒かった。ひもじかった。いちばん辛かったのは喉が渇いたことだった。
泣きながら母親を探して歩いた。林を出て海岸に沿って歩き、やがて日も暮れる頃に彼はやっと里を見つけた。母親を探して里の中に駆けこんだが、見慣れない人々に出会っただけだった。どうやら違う里に来てしまったようだと、それだけが分かった。
男がひとり、彼の側に寄ってきた。泣きじゃくる彼から事情を聞いて、頭をひとつなでてくれ、水と食べ物をほんの少し与えてくれた。
それから男は周囲の人々と目を見交わし、彼の手を引いた。彼がこんど連れていかれたのは海の縁だった。青い海の向こうに、壁のように高い山がずっと続いているのが見える。崖の突端まで来ると、男はもう一度彼の頭をなで、ごめんよ、とつぶやいて、彼を崖から突き落としたのだった。
彼が次に目を開けたとき、暗い穴の中にいた。潮の匂いがぷんとして、それに混じって嗅ぎ慣れた腐臭がした。それは死体の臭いだ。彼はあまりにそれに慣れていたので、特に怖いとも思わなかったし、不審も感じなかった。
濡れた体がただ寒く、ただ寂しかった。近くで何かが身動きする音がしたので、そちらを見やったが、暗闇のせいで、小山のような影が見えただけだった。
彼は泣いた。怖かったのはもちろんだが、やはりなにより寂しかったのだ。
ふいに腕になま温かい息がかかった。彼がぴくりと震えると、次いでふわふわしたものが腕をなでた。鳥の羽毛の手触りにそれはよく似ている。この暗い場所には何か大きな鳥がいて、それが彼の様子をしきりにうかがっているのだった。
驚きのあまり彼が体を硬直させていると、それは温かな羽毛を押し当ててきた。まるでくるむようにして翼の中に抱え込む。あまりにそれが温かかったので、彼は羽毛にしがみついた。
「阿母……」
ただただ母親を呼んで泣いた。
※
──虚海の果てには幸福があるはずではなかったか。
蓬莱も常世も結局のところ、荒廃に苦しむ人々が培った切なる願いの具現に過ぎない。
虚海の東と西、ふたつの国で捨てられた子供はのちに邂逅する。
ともに荒廃を背負い、幻の国を地上に探していた。