引用
最初由 那塔枷罗 发布
是哟@@
我同事说出版社的主页有时候也能找到一些,不过我都找不到,不知道根本原因是不是日文太烂-.-
跟日文水平没关系吧。。
出版社的主页不太可能有书看的,如果有也只是一些试看的。。
引用
最初由 dssx 发布
winny的开发者貌似今年6月被抓了=v=
嗯,觉得他挺倒霉的。。。
还好winny仍然有很多用户,资源仍然丰富。。我玩winny和share一周半了,拖了几十G的漫画和小说。。。
今天二级报名忙了一天,网页刷了N个小时都不出来,晕死~~~
从没见过这么恐怖的网上报名系统。。。真艰难,跟打仗似的。。哎,半夜再奋战一下,不行干脆放弃了~~
9
村は燃えていた。
未明に十騎の兵を連れ、ギュンターには告げずに城を発《た》った。ヴォルフラムと同乗したのだが、彼の馬捌きはワイルドで初日よりかなり辛い行程となった。とはいえおれもタンデム上級者になりつつあり、荒っぽい騎乗にもどうにか耐えられた。
従う連中がいやに美形ぞろいだなと思ったら、ヴォルフの私兵だということだった。なるほど、要するに由緒正しい純血魔族の皆さんか。
視線を感じて見上げると、骨飛族の一人が、一匹かな、ちょっと遅れてついてきていた。どうして視線なんか感じたのだろう、頭蓋骨の目の部分には穴しかないのに。
「兄上が向かわれたのだから、今頃はもう全て治めて、事後の対策にかかっているだろう。特に危険はないと思うが、なにしろお前はへなちょこだからな、目の届かない所には行くなよ」
「……へなちょこゆーな……」
だが、午後を過ぎておれたちが到着したときには、村は燃えていた。家も畑も。かなりの勢いの火の手は、曇り空さえ朱に染めていた。兵たちは森に飛び火しないようにと走り回り、村人は柵から離れてひとかたまりになっていた。
女と、子供と、老人だけだ。皆、言葉を失って立ち尽くしている。老婆が一人だけ泣き叫んでいた。
「今頃はもう治まってるって、お前さっき言っただろ」
「妙だな、そんなはずが」
「けどもう目の前に見えてんだから。ああどうしよ、すげー燃えてる、あいつら大丈夫だったかなー」
数十メートル先の村に向かって、とにかく早く森を抜けようとした、その時だ。
「相変わらず世間知らずだな、三男坊」
部下しか居ないはずの背後から、聞き覚えのある人物の、面白がるような声がした。
「……アメフト・マッチョ!?」
三騎だけを従えてそこにいたのは、初日に会った、デンバー・ブロンコス。確か名前は……
「アーダルベルトだっけ」
「おや、記憶力がいいな。あの時はただのバカかと思ったもんだが」
「バカそに見えて悪かったね」
対応しているのはおれだけで、振り返って見たものは、馬上で凍り付いたように動けない美形ぞろいの兵士たちだった。それどころか、おれの前に乗っているヴォルフラムも、身体を硬くしたままピクリとも動かない。
アーダルベルトはゆっくりとおれたちに近付き、ヴォルフラムの横顔を眺めながら言った。
「これだからお前は甘いってんだよ。王様を護るのに十騎ばかりでいいのか? しかも純血魔族なんかばかり集めたりするから、魔封《まふう》じの法術に簡単にひっかかる。こういう時は最後の一人に、術を無効化する兵を選ばねーとな」
というと、今現在、おれを除いた味方全員が、その魔封じだかいう術にかかって身動き取れなくなっているのか!? 信じられない、目的地を目の前にして。スタンドが見えているのにガス欠で止まっちまった車みたいなものだろうか。
「よう、また会ったな新魔王陛下」
「どもス」
彼が敵なのかはっきりしないので、とりあえず曖昧に挨拶しておく。魔族と敵対してはいるようだが、おれにはどちらかといえば親切だった。初めて会ったときには、村人との間に仲裁に入ってくれたし、言葉を教えてくれもした。
それに、彼のフルネームはフォングランツ・アーダルベルト。いかにも魔族って響きじゃないか。
「……こいつらが動けないのは、あんたのせい?」
「ああ、まあな。ちょっと修行して覚えた魔封じの法術だよ。お前さんはどうして、こいつの後ろになんか乗ってんだ? 母親と長兄にしか尻尾《しっぽ》を振らねえ三男坊を、いったいどうやって手懐《てなず》けた?」
手懐けられてるとは思えない。にしても、この男はコンラッドとも知り合いだったし、今の台詞から察するに、ヴォルフラムやグウェンダルとも近しいようだ。なのにどうして敵対してるんだろう。おれは疑問を口にした。
「あんたホントは魔族なんだろ」
アーダルベルトは眉を上げ、額に皺《しわ》を寄せて短く答えた。
「昔はな」
「じゃ何でこいつやコンラッドと仲悪ィの。何でわざわざ邪魔しに出てくんの」
「嫌いだからさ」
嫌い?
「オレは魔族が死ぬほど嫌いでね。こいつらのやり方に嫌気がさしてんのさ。だから薄汚ねぇ魔族の手から、お前さんを救ってやろうっていうんじゃねぇか。さ、気の毒な犠牲《いけにえ》の異世界人、早いとここの場から離れようや」
「おれを……救うって……」
「いきなり違う世界に連れてこられて、魔王になれなんて強要されてんだろ? 魔王っていやあ人間の敵だ。この世を堕落させ破滅させる凶悪な存在だぜ。お前みたいな若くて善良な人間を、そんな悪者に仕立て上げようってんだ。なあ、あんまりじゃないか。あまりにひどすぎると思わねーか?」
この世界に来て初めて、おれが人間だということを肯定してくれた。おれは平凡な高校一年生で、ギュンターやコンラッドやツェリ様が期待する、魔王の魂の持ち主なんかじゃない、ずっとそう言い続けてきたけれど、誰も信じてはくれなかった。
「こいつらには犠牲が必要だったのさ。王の座に祭り上げるためのイケニエがな。それには抵抗も反抗もできないような、何も知らない真っ白な少年がいい。魔族に敵対する人間達に、全ての元凶として憎ませる、そのためだけの存在として、お前を魔王にしようとしてるんだ」
「……おれは」
アーダルベルトは真横に並び、耳に二重にも三重にも響くように語りかける。
「お前は善良な人間だ。だから魔封じも効果がない。そうだろ?」
「……ああ、おれは人間だよ……魔族じゃないし……魔王でも……」
「そいつの話を聞くなッ!」
ヴォルフラムの掠《かす》れた叫び。ぎくっとおれの肩が震える。
「あっ、えっ、しゃ、喋れんのか!?」
「そんな奴の話を聞くんじゃないッ! その男は……っ」
おれの肩だけではなく、腰に回した腕から伝わる、彼の全身の細かい震え。前を向いたままの首筋に、汗の粒がぽつぽつと浮かんでいる。
「その男は、我々を裏切った……っ、お前も、仲間にっ、引き込もうとしてるッ」
「ヴォルフラム、つらいんだったら喋んなくていいって」
「いーんだぜ三男坊!」
裏切り者と呼ばれたばかりの男が、長い剣をすらりと抜き取って、切っ先を魔族のプリンスの喉元に向けた。
「無理して声を出さなくても。ちょっとばかし魔力が高いと、完璧に術に支配されなくて損だよなぁ。もっと楽に意識を手放せれば、部下達みたいに楽しい気分になれたものを」
首を捻《ひね》って後ろを見ると、おれたちが連れていた魔族の騎兵は、酔っ払ってふらつくおっさんみたいに視線を宙に彷徨《さまよ》わせていた。
プライドの高いヴォルフラムのことだから、血管切れそうな状態だろう。
アーダルベルトは追い打ちをかける。
「見ろよ、お前の大嫌いな人間どもが、魔族の土地を炎に変えてるぜ。ヴォルフラム、お前、いつも言ってたよなあ。人間ごときに何ができる、あんな虫けらみたいな連中が、魔族に刃向かうこと自体間違いだって」
「人間!?」
おれは馬から身を乗り出した。
あと一蹴りで森を抜けるのに。木々の隙間には、絶望と憎しみの光景が見えていた。炎の向こうからは、矢らしき影が尾を引いて飛んでくる。剣を合わせる接近戦ではないものの、誰かが誰かを攻撃している。
母親が、子供を抱えて地面に伏せた。駆け寄った兵士が自分も低い姿勢をとりながら、引き絞った弓で応戦する。
戦争してる。
目の前で起こってることが俄《にわか》には信じられなくて、おれは繰り返し呟いていた。
「戦争してる、戦争、ホントに、現実に」
多分この程度の規模では、紛争とか別の呼び方があるのだろう。けれど、生まれて初めて目にする「現場」は、「戦場」にしか思えなかった。
「……どことどこが、じゃなくて、誰と誰が? 魔族と人間が?」
森に避難しようと走ってきた老人が、背中を反らせて飛び上がった。そのまま前のめりに倒れる。腰の辺りに矢が突き刺さっていた。死んではいない、離れているのに、目が合ったから。
「なんで射たれてんの、兵隊じゃないのに……どう見たってあの人は軍隊の人じゃないだろうに。あの人は村の住人だろ、村の人達は難民のはずだろ?」
人間どもが、魔族の土地を炎に変えている。
でも、あの土地で生活していたのは、人間の子供や女や老人ばかり。
声の最初が微かに震えた。驚きと恐怖となにかの感情で。
「あんたたち、人間同士で戦ってんのか? 逃げてきた子供たちがひっそり生活してる村を、人間の兵士が襲ってんのか?」
ヴォルフラムが苦々しげに、アーダルベルトに吐き捨てた。
「どうせ貴様の差金だろうっ」
「オレはちょっと助言してやっただけさ」
バランスを崩しかけておれがばたつくと、栗毛が軽く身動《みじろ》いだ。赤茶の尾が左右に大きく振れる。裏切り者と呼ばれた男は、惨状《さんじょう》を眺めつつおれに言う。
「信仰する神の教えには背くなよ、ってな。知ってるか、去年は記録的な大豊作で、連中の国は増税したんだ。今年も同じ試算で徴収される、そうなったら食べる分も残らねえ。選択肢は二つだ、飢えるか、調達するか。あいつらはオレに助言を求めた。だから教えてやったのさ。隣の村ほどの近さとはいえ、ここは憎むべき魔族の土地だ。魔族の土地に住み、魔族の土地を耕す者から奪うのなら、神もお怒りにはならないだろう。隣人から奪うという重い罪を、問われることもないだろうと」
「だってそんな、人間だろ、どっちも同じ、人間なんだろ!?」
「違うな、同じ人間、じゃない。この村の奴らは魔族についた人間だ。魔族の側についた者達は、もう同じ仲間とは思われない」
おれは親指が痛むまで両手を握り、もどかしさに腿に叩きつける。
「わっかーんねーよっ!」
「解らなくてもいい。とにかくオレは、お前を連れ出してやりに来たんだ。お前は魔族じゃなくて人間なんだろ? 異世界から連れてこられただけの被害者で、髪と目が黒いって理由だけで、魔王に仕立て上げられそうな生贄《いけにえ》なんだ。一旦、魔族の側についちまったら、もう二度と仲間とは思われねぇぞ」
アーダルベルトは、おれに手を貸してくれようというのか、馬の左に飛び降りた。間に馬体をはさむ状態になり、少しだけ彼と距離ができた。ヴォルフラムがこちらを向きもせずに低く囁く。
「行け」
「え?」
「見たところ、こいつらにお前を殺す気はなさそうだ。無理に抵抗して傷でも負われたら面倒だ。今はアーダルベルトに従っておけ」
「ったって、お前とか皆は……」
「構うな」
おれは言葉を呑み込んだ。おれがこの場を去った後で、残った彼等はどうなるのだろう。
もう一度ヴォルフラムは短く囁く。
「早く行けユーリ!」
ゆっくりと反対側に回り込んだアーダルベルトが、おれに片手を差し出した。
「そうだよなあ、ヴォルフラム。ここでこいつを失ったところで、また新しいガキを喚《よ》び寄せりゃいいだけのことだ。魔王候補をみすみす逃がしたってことで、兄貴たちに少々責められはするだろうが、自分さえ無事なら何とでもなる。こいつを護ろうなんて暴れて生命《いのち》を失うより、ずっと賢い選択だ」
ヴォルフラムは僅かに唇をかみ、おれの腕が離れる瞬間に小さく言った。耳から聞こえたのかどうかはわからない。何かを通じて伝わった。
「……迎えにいく、絶対に」
瞬《まばた》きをするほんの一秒の間に、おれはいくつもの気持ちと情報を素早く受け入れ、自分のとる行動を導きだした。結果がどうなっても、現在の状況ではベストの答えを。
どちらを選べば後悔しないのかを。
「手を貸してもらったからって、おれがあんたとタンデムすると思うなよ」
おれは勢いよく地面に降り立ち、長時間の乗馬で足腰が痛むといわんばかりに屈伸をしてみせた。アーダルベルトの部下の中からいい乗り手を探そうと、後方の騎馬に歩み寄る。
「あんたみたいなガタイのいいマッチョは嫌いなんだ。劣等感刺激されるから。その上、顔でも負けてるから」
「じゃあ、どいつと相乗りしてーんだ。それとも独りで乗れるのか?」
「独りで? とんでもない!」
最後の「ない!」を発すると同時に、酔っ払った味方の足を思い切り叩いた。兵は目覚めたりしなかったが、そいつの拍車は馬の腹に当たり、葦毛《あしげ》は嘶《いなな》いて走りだす。一頭につられて他の騎馬も駆け出す。たじろいで止まったままのやつも、おれに蹴られてダッシュする。
たちまち周囲は蹄の音で満たされ、十数頭の馬群は、敵味方乱れて森の出口へと突っ走った。ヴォルフラムの栗毛も巻き込まれていて、アーダルベルトとおれだけがとり残された。
「……なんでこんなことをする?」
「ヴォルフラムはちゃんと最後の一人を選んでたよ。その一人がおれだってことに、あんたが気付かなかっただけなんじゃないの」
ああ、惜しむらくはその最後の一人となったおれに、身を守る武器を与えなかったこと。
「ユーリ、オレはお前のためを思って、魔族のもとから連れ出してやろうと言ってるんだぜ。それをわざわざぶっ潰すなんて、どうしてこんなことをするんだ、ええ?」
「おれは最後まで付き合うって決めたんだ。この、悪い夢みたいなアトラクションにね。だけど、付き合う相手はアンタじゃない。あんたはおれのチームに要らないんだよ」
おれの構想には入っていないので、戦力外通告を申し渡す。
「おいおい、そりゃないだろ」
アーダルベルトが、巨大な両手剣をぶら下げて足を進める。
「お前が怖がらないようにって、せっかく気ィ遣ってやったのによ。だったら最初っから腕の一本でも圧《へ》し折って、脅して拉致すりゃよかったよ」
「み、右投げだから右腕は勘弁して下さい」
「別に左腕でもかまわんよ。だが、一番手っ取り早いのは……」
どうやらおれの人選は、この男に関しては間違っていなかったようだ。
「魔王を消しちまうことだけどなッ」
「ひぃッ!」
我ながら情けない悲鳴だとは思う。だがこんなデカくて長い剣を振り回されてたのでは、剣道経験のない身としては堪らない。しかも彼の武器は恐らく練習用ではない。恐らくっていうか確実に実戦用だ。
「おっ、おれを魔族の皆さんから連れ出してくれようとしたんだろ!? だったら今からだって遅くはないじゃないかっ。なにも急に心変わりして殺さなくたって、歩いてだってこの国は抜けられるんだしっ」
「お前は魔族に肩入れすると決めたんだろ。だったらオレにとっちゃ敵ってわけだ。魔族に力ある魔王を持たせたら、ますます厄介な存在になる!」
「だってアンタさっきからおれに言ってたじゃん! おれは普通の人間で、たまたま髪と目が黒いから魔王に祭り上げられてるだけだって。あっちの世界から喚《よ》ばれた被害者で、普通の人間だって言ってたのに!」
刃《やいば》の向きを変える音が、やけに大きく重く響く。
「眞王がそんな戯《たわむ》れをするものか」
「じゃ、じゃ、じゃ、じゃあ嘘だったのか!? おれが普通の人間だってのは、アンタの口から出任せだったのか!?」
「お前を懐柔《かいじゅう》できないもんかと、そう言い続けてきたんだが……」
アーダルベルトは照準をあわせ、必要なだけ間合いを詰めた。
「お前は本物だよ、残念ながら」
背中が乾燥した幹に当たる。後ろに逃げ場がないってことだ。一回二回は避けられても、その先がどうにもならないだろう。ヴォルフラムとの決闘とは状況が違う。殺傷能力も高そうだし、使い手のレベルにも格段の差が。
振りかざされた剣の影が額に落ちる。おれは観念して目を瞑《つぶ》った。
速球が風を切るみたいな空気の振動と、枯枝が折れるような乾いた音。しゃがみこんだおれの足や腕に、ばらばらと破片が降ってくる。膝にかさつくボール状の物が転がりこみ、そっと片目を開けてみた。
「こっ……」
ずっとついてきていた骨飛族が、アーダルベルトの巨大な剣で「壊れて」いた。脊髄にもろにクリティカルヒットを食らったのか、ほとんど全壊して散らばっている。おれの膝に頭蓋骨が乗っていて、薄茶の翼は痙攣《けいれん》していた。
おれを、庇《かば》って?
「コッヒー、なんでこんな……」
「骨飛族のそんな行動は初めて見たな。主を護ろうと命懸けってことか。ちッ、変なもん斬っちまったぜ」
「変なもんってどういうことだ!?」
心の中でコッヒーに詫びながら、彼の一部(多分、腿の辺り)を握り締めて立ち上がった。もちろん、骨で剣を凌《しの》げるとは思えない。しかし、目を閉じて成仏するのを待つだけでは、彼の死を無駄にすることになる。
「テメーなんかにコッヒーの何が解る!?」
いや、おれも深くは解ってないけど。
もはや本性を隠そうともせず、アーダルベルトは悪役めいた笑みを浮かべる。
「意志も持たない種族に同情たぁ、今度の魔王は庶民派だな」
「うるせー! おれは庶民派が売りだ、消費税引き下げが公約なんだよっ」
おれが骨……武器を構えると同時に、3%ではきかないくらいの心強い馬群が迫ってきた。白馬の王子さまならぬ、ウェラー卿とフォンビーレフェルト卿の軍隊だった。
運が悪い、多勢に無勢ではどうにもならない、しかも馬もない状況では、お前を人質にとって逃げることさえままならない。アーダルベルトは言い散らして、援軍が来る前に掻き消えた。コンラッドは部下の数人に追跡を命じ、行き先を突き止めるようにと指示をした。決して必要以上に近付かず、チャンスと思っても手をだすな。こちらの生命《いのち》が危険だから。
「おそらく、まかれるだろうが」
それより前におれたちは外人俳優顔負けの抱擁をかわしており、何故かヴォルフラムに砂を投げつけられた。
「よかった、ユーリ。今度ばかりはもう駄目かと」
「おれも、よかったよー。映画で男同士がガシッて抱きあってる気持ちがやっと理解できた」
こういう感じだったわけだ。互いの背をバンバン叩きながら、コンラッドが引きつった声で言った。
「ところで、俺の背中に当たってる硬いものは何ですか」
「ああこれ? ホネ」
「骨。なぁんだそうですか、骨ですか。で、陛下はそれを何に使うつもりだったんです?」
「えーと、棍棒がわりに」
彼はがばっと身体を離した。眉間にしわが寄っている。
「まさか、アーダルベルト相手に一戦やらかすつもりだったんじゃ……」
「だってみすみす殺されるのヤだもん」
「あーもうっ、陛下、ヴォルフラムの時とは話が違うんですよ!? あいつとヴォルフじゃ格が違うってのに」
「悪かったなッ、格が違って!」
栗毛から降りた三男が、不愉快そうに下草を蹴った。魔封じとやらの効果は切れたのだろうが、顔色がいいとはお世辞にもいえない。
「大丈夫なのか、ヴォルフラム」
「ふん、お前に心配される筋合いはない」
「だったら心配しないけどさー」
「こいつは自業自得です。勝手に陛下をこんな所まで」
若い方の兄に咎められても、悪怖《わるび》れた様子など微塵《みじん》もない。おれは自分が頼んだことにして、さっさと話題を切り替えた。
「それより、なんでこんなに早く来てくれたんだ」
「俺としては遅すぎるくらいだよ。村を越えた国境近くで交戦中だったんだけど、俺達の隊に従ってた骨飛族が、仲間の窮地を聞きつけて。言ったでしょう、彼等には独特の意思伝達能力があって、少々離れた場所からでも、精神だけで会話ができるんです。で、その場をグウェンに任せて、ここまで駆け戻る途中でヴォルフラム達と……」
「そうだ! どうしよう、コッヒーだよ!」
おれは木の根元に散らばる残骸を掻き集め、中央に頭蓋骨をそーっと置いた。
「可哀相にコッヒー……おれなんかのために自分の命を……ホントにごめんな、きみにだって妻も子もあったろうにさぁ」
とはいえ性別、依然として不明。せめて簡単な墓をつくり、命日と彼岸には花でも手向《たむ》けようと、悪いけど彼自身の大腿骨《だいたいこつ》で、草の間を掘り始める。
「ああちょっと陛下、埋めちゃ駄目だ」
「なにいってんだよぅ、コッヒーを野晒《のざら》しにはしておけないよー」
「責任もって回収させますから。埋めちゃったらもう二度と飛べないじゃないですか」
「は?」
「だから、骨飛族はきちんと組み立て直せば、元どおり飛べるようになりますから」
「し、死んでないの?」
「彼等の生態に関しては、実に不思議な部分が多くて」
「ほんとにー? ほんとにそんなプラモみたいな仕組みなのー? じゃあ変なとこに変なホネ組み入れちゃって、新しい生物にしないでくれよー?」
「大丈夫、専門の技術者がいるんです」
プロのモデラーか。けど良かった。生きててくれて何よりだ。
ようやく森を抜けて村に戻ると、逃げ遅れた敵兵の対処にあたるコンラッドに、くれぐれも注意するようにと言い含められた。
「終息に近付いてきてはいますが、まだ残党の抗戦もある。いいですか、決して俺の目の届かないところには行かないでください。流れ矢に当たって命を落とす者もいるんだから」
「な、流れ矢かぁ」
そういえばさっき、流れ矢っぽいものに射られた老人はどうなったのだろう。コンラッドの視界から外れないように気をつけながら、おれは負傷者が集められている一角に向かった。
火の粉を避けて張られた布は、体育祭の救護テントを思わせる。だが屋根の下はそんな閑《のど》かな雰囲気ではなく、二十人以上の怪我人が、草の上に直接、横たわっていた。おれが茫然と突っ立っている間にも、次々と人が運ばれてくる。
魔族も人間も村人もない。叫んだり呻いたり泣いたりしている。
青白い肌の女の子が、一人で忙しく動き回っていた。癒しの手の一族、とギュンターが呼んでいた。彼女は、つまり、衛生兵なのだろうか。この国では男女の別なく戦地に赴《おもむ》くらしい。そういう点は、妙に進歩的だ。
「何かおれに手伝えることがあったら……」
女の子は顔を上げ、おれを見て仰天した。外見はまだヴォルフラムくらいだが、きっとおれより年上だろう。
「いいえ、陛下! とんでもない、ここはわたし一人で大丈夫です」
「でもどんどん運ばれてくるよ」
「あのっ、あの、申し訳ありません、陛下にこんな見苦しいところを。どうぞ、陛下、お戻りになって、兵達の指揮をお願いいたします」
おれは首を横に振り、彼女の領分に足を踏み入れた。
「見苦しいことなんて全然ないよ……みんな怪我して苦しんでるんだから、それにおれは軍隊を指揮できるタイプじゃないし」
新たに一人、運ばれてきたことで、衛生兵の気持ちも変わったようだ。救急キットらしき箱を手渡して、入り口近くの男を指差した。
「本当に申し訳ございませんが、それではあちらの軽傷の患者から、この液で消毒をお願いできますか。必ず手袋をなさってください。布と鋏《はさみ》はこちらにございますので。あの、陛下、負傷兵の治療のご経験は……」
「ないけど、多分、気を失ったりはしないと思う」
死球傷とかスライディング傷とかスパイク傷とかを見てきているので。女性兵は、安心したという表情で、重傷患者を診《み》てやりに行った。おれは太股を斬られた男に、大胆に消毒液をふりかけた。スパイクで切れた傷なんてものじゃない、肉が開いてピンク色だ。
「運が悪いな、鎧のないとこやられちゃうなんて。けど安心しろ、傷は浅いぞ。その証拠に骨も筋肉も見えてない」
手が震えた。
「そんな、陛下、もったいない……」
「もったいないだって? 薬品をケチっちゃいけないよ。ねえちょっと、これ傷薬ー?」
少女がおれに頷いた。キットの中の黄色いジェルを、大きめのガーゼに塗りたくり、保健体育だったかボーイスカウトだったかで習った通りに、幅広い包帯で腿を覆う。男はしきりにもったいながっていた。次ッ、と自分に気合いを入れて、裂傷や火傷の具合を調べる。
比較的元気な者ばかりだったが、部活中の擦り傷や打ち身くらいしか負ったことがないおれにとっては、それでもここは「野戦病院」だった。何人かの軽傷患者を処置した後、うつぶせの男の番になった。
背中を斜めに斬られているが、防刃《ぼうじん》服のおかげで、出血の割には深くない。辻斬りに襲われた町人みたいだ。汚れた衿《えり》に明るい茶色の髪がかかっている。革紐の先についた銀のコインが首の後ろに回ってきていた。幸運のネックレスなのか、どこかの国の貨幣なのか。深く考えもせずに、ぴかぴかの一円玉を掴もうとした。
「触るなッ」
「えっ、あっすんません! 別に取ろうとしたわけじゃなくてっ、ただちょっとキレイだったから……」
「オレに触るなっ! どうせ殺すんだろ!? 魔族が人間を生かしておくわけがねえ」
「殺……殺したりしないって……」
男は身体を起こそうとして、痛みに呻いて顔をしかめた。とても聞き取れない悪態を、おれに向かって繰り返す。こちらの姿は見えていない。
「あんた、人間か」
「当然だ、畜生、お前等魔族と一緒にすんな! くそッ、殺すんなら早くやれ」
「殺さないよっ、なんだよあんたいい大人のくせして、傷の消毒がそんなに恐いのか」
「消毒だァ? 今さら善人ぶった嘘吐くんじゃねーや、魔族が人間を助けるわけがねえ! テメーら魔族は人間を殺す、だからオレ達も魔族をぶっ殺すのさ」
おれは構わず傷に液体を流しかけた。
「殺しゃしないようるせーなぁもう! その証拠にあの村に住んでたのは人間だったじゃないか。魔族が人間を殺すってんなら、あの人たちはどうして生きてんだよ! せっかく静かに生活してたのを、壊しにきたのはあんた達だろっ」
そうだ、こいつらは人間の村を襲い、人間に対して剣を向けた。矢を放った。
同じ人間なのに。
男はおれを見ようと首をそらし、おれは男を見下ろして立っていた。
「あそこは壊してもいいんだよ! あの村の連中は魔族に魂を売った、あいつらからは奪ってもかまわねーんだ、あんな村ぁ焼けちまって当然なんだ! 神はオレ達をお許しになる、魔族を懲らしめるために力をお貸し下さるのさ!」
痛みと出血のせいなのか、ヒステリックに掠れた笑い声。
「神は人間をお選びになる!」
「……それ、どんな神様だよ」
額に包帯を巻いた兵士が、隣からゆらりと起き上がる。
「……陛下に……なんということを……」
待てという間もなかった。彼は剣を掴み、叫ぶ人間の首めがけて振り下ろす。
「だっ……」
「やめなさい!」
剣は鋭く空を切り、やわらかい地面に食い込んだ。男の首はまだ胴についている。運よく武器が折れていたからだ。衛生兵の少女は男の顎を持ち上げ、濡れた布を素早く鼻に当てた。負傷した人間から力が抜けて、ぐったりと草の上に顔を押しつける。
「怪我人が興奮状態にあるときは、悪いけど眠ってもらうことにしてるんです」
よくあるもめ事の類なのか、取り乱すこともなく彼女は微笑む。
「御気分を害されたことでしょう、申し訳ありませんが、彼等はいつも懐疑的《かいぎてき》なのです。そこのあなた、あなたも行動を慎みなさい。わたしの職場に運ばれてきたからには、全員が平等にわたしの患者です。傷つけあうことは許しません! あら、陛下」
彼女は、圧倒されているおれを覗き込み、喉元に揺れる石を見つけた。
「それはコンラート閣下からの捧げ物ですか?」
「え、ああうん」
「そうですか」
何を思い出したのか小さく頷いて、次の負傷者にとりかかる。
「よくお似合いです、とてもよく」
兵に指示を出しているコンラッドのもとへ、おれはふらつく足取りで寄っていった。所々焦げた服の兵士が来て、井戸について報告している。
「わかった、無理に近付くな。土はなるべく広範囲に、掘った分は全て柵の中だ」
部下が略礼で走り去る。腕組みをしたヴォルフラムは、さして深刻そうな様子でもない。
「兄上が戻られたら、こんな村、地の中に飲み込ませてもらえばいいんだ。そうすれば火も消える、森に被害は及ばない」
「では村人の家や土地はどうなる。せっかく拓《ひら》いた田畑は?」
「ふん、奴等だって同じ人間に火を放たれたのだから、仕方がないと諦めるだろう」
同じ人間に。
おれはわけもなく脱力して、その場にへなへなとしゃがみこんだ。
「陛下」
コンラッドが膝を折り、背中にそっと手を置いた。
「どうしてこんなことするんだろうな……食糧が欲しいからってこんなこと。おれはヴォルフラムやグウェンダルみたいに、人間を軽蔑してる魔族の誰かが、嫌いだからってこの村を襲ったのかと思ったんだ」
ヴォルフラムは心外だといわんばかりに鼻を鳴らした。
「どうしてぼくらがそんな無駄なことをしなければならない? ここは昔から魔族の土地だ。燃えればそれだけ自然が失われる。それに森にでも火が届いてみろ、一年二年で復旧できるものじゃないんだぞ」
黒煙とともに燃え上がり、やがて無残に崩れ落ちる家々。ほんの数日前に訪れたときには、緑と黄金に輝いていたのに、今は炎に舐められる農地。森に逃げ込んだ数頭の家畜。
「どうして、人間同士でこんなこと……」
コンラッドは降りかかる火の粉を遮り、おれの肩を掴んで引っ張った。
「あんたたち魔族が人間と敵対するのは、良くないことだけど解らないでもないさ。つまり、えーと、うまくいえないけど、シャチとイルカが仲が悪いとかそういう……けどそれはお互いが違うから生まれる不仲だろ、それはなんとなく解る気がするよ。なのに人間同士で争うってどういうこと?」
さっきの男のヒステリックな笑い声が、頭の中を駆け回った。
「それじゃイルカ同士が傷つけ合うみたいなもんじゃねえ!? そんな無意味で残酷なことやってて、神様に怒られないってどういうことだよ!?」
魔族と人間の中間にいる彼は、感情を読み取れないほど低く言う。
「では」
兵士たちのあげる疲労と絶望の声、焼けた麦が灰になって舞い上がる。
落ちて草の上に積もったそれは、蹄《ひづめ》に散らされて再び踊る。
何度も繰り返す。いずれ地に返るときまで。
「陛下のいらした地球では、人間同士が争うことはなかったとでも?」
「……それは……」
炎に照らされた馬上の人影が近付く。三騎ばかり従えた彼は大きな布の塊を引きずっていて、おれたちの前で放り出し、村人の一団に目をやった。
「これ……っ」
ボロ布に見えたのは人だった。兵士の服装の肩と右足に矢が刺さり、額からの流血で目まで真っ赤だ。もう一つの荷物は農民風の男で、青白い顔で低く呟いていた。怪我らしい怪我は見つからないが、両腕と足が奇妙に曲がっている。
骨が。
おれは痛みを想像してしまい、こみあげる胃液の一部を、やっとのことで飲み下した。
「あちらは直に片付く。といっても大半は国境を越えて逃走したが」
こんな大変な事態になっても、グウェンダルの表情はろくに変わらない。いつもどおりに不機嫌で秀麗で、服についた他人の血以外には、戦闘の痕跡をとどめていない。末弟たちが来ていたことに対してか、微かに眉を上げた後、武人としては認めている方の弟と状況について話し始めた。
「この男がアーダルベルトが扇動したと吐いた。どうりで手慣れているわけだ。兵士くずれがかなり参加している。その中に火の術者がいたらしい。炎の勢いはそのせいだ」
「一向に衰える気配がないよ。骨飛族の伝達が昼頃だから、術者が着くまではまだかなりある、それまで持ち堪《こた》えられるかどうか。森だけはなんとしても守らないと」
「ではそいつらは加勢ではなく、単に見物に来ただけか。それとも……」
見物人扱いされているのが自分だと悟り、おれは唇を噛んでうつむいた。優雅に降り立ったグウェンダルは、興奮気味の馬を炎から離すよう部下に命じ、背筋を伸ばしてこちらを見る。
「あの時のように見事な水の魔術で、この村の猛火を鎮めてくださるのか?」
「どういう……」
あの時の水の魔術とはなんだ? 不安が胸の奥で燻《くすぶ》っている。ギュンターも水に関することを言っていた。要素と盟約で、具現形態がどうだとか。
おれの記憶にない時間の中で、責任をとれないことが起こってるのか?
「兄上、どうやらこいつは覚えていないようなのです」
ヴォルフラムが素っ気なく、然《さ》したることでもないように言った。
「あれは無意識下だからこそできた、幸運と呼ぶしかない奇跡。つまりユーリは現在、剣も魔術も使いこなせないばかりか、馬にも乗れない素人ということで」
「奇跡、おれが? どんなすごい奇跡を、おれが起こしたって?」
コンラッドが、済まなそうな視線を向けている。あの眼差しには心当たりがある、生徒指導室に付き合ってくれた担任の目だ。あんたがそんな顔することはないんだよ、監督殴って部活クビになるのはおれなんだから。おれは自分のやったことを、これっぽっちも悔やんでないんだから。呼び出された母親は監督と学年主任に、殴った事実を詫びてから笑って訊いた。それで監督さんは、なにをやっちゃったんですか。この子を怒らせて殴られるような、ちょっとまずい出来事があったんでしょ。ゆーちゃんたら昔からそうなんですけど、子供のくせにポリシーみたいな変なもの持ってて、それに反することに出くわすと、頭に血が昇っちゃうみたいなんですよ。まあ我を忘れた状態になっても、正義の二文字だけは守るんですけど。
教師間では、この親にしてこの子ありという結論が出されたらしい。
母の言葉を信じるなら、小市民的正義感は、貫き通せているはずだ。
とはいえ今、目の前で、再現しようにも思い出せないのでは……。
「どうせ役に立たないのなら、せめて邪魔にだけはならないでくれ」
長男は、本気で期待してはいなかったようだ。
肩を寄せ合う村人達から、年嵩《としかさ》の女が一人引っ張ってこられる。頬にほつれた金髪と涙の筋をつけた女は、魔族のなかでも位が高く美しい人を前に怯えていた。兵が彼女に剣を持たせ、うずくまる敵の近くに連れてゆく。グウェンダルが言った。
「そいつらがお前の村を焼いた。殺すなり晒すなり好きにするがいい」
「なんだって!?」
またお前か、という顔で睨まれる。だが放ってはおけない。いつもどおりの、おれ。
違う世界に飛ばされてまで、社会で習ったとおりの行動。
けど、それが自分だ。
おれは拳をかたくして、女と負傷兵の間に立つ。魔族の権力者に独り挑む。
「だめだろ、こいつはつまり、紛争の捕虜だろっ!? 捕虜の扱いには決まりがあんだろ。さっき治療してた女の子も、怪我人は平等だって言ってたぞ」
「コンラート、このうるさいのをどうにかしろ」
「おれはどうにもされないよッ」
さしもの彼《グウェンダル》も少しは苛ついたのか、額に手を当てた。
「それは一般兵の話だろう、こいつらは首謀者だ」
「たとえ首謀者だって同じだ、勝手に死刑とかできるわけないじゃん! こいつにもちゃんと弁護士つけて、裁判開いて有罪か決めて……」
武器を持ち上げられもしない女にも、おれは必死の説得を試みる。
「おばさんも、こんな非常識な連中の口車に乗っちゃ駄目だ。いくら相手が偉い人だって、従っていいことと悪いことがある。捕虜を勝手に殺しちゃいけないってことくらい、義務教育で習っただろ。中学の歴史か公民かなんかで、私刑《リンチ》になるから禁止だって」
「あたしは……そんな……」
「その女は教育など受けていない。貴族に楯突《たてつ》くと厄介だから、人間どもは民が余計な知恵をつけることを嫌う。教育が義務だなど以《もっ》ての外だ」
「義務教育がないィー!?」
剣と魔法の世界では、人としての権利はどうなっているのだ。
説得の効果とはいえないが、女はためらって立ち尽くすばかりで、今のところ私刑は避けられそうだ。おれは胸を撫で下ろし、できることがないかと周囲を見回す。例えば町火消しの纏《まとい》を持つとか、初心にかえってバケツリレーとか。だがどこを見ても水がない。皆、土を掘ってはかけている。
「どうして水かけて消さないの?」
何の気もなくコンラッドに尋ねる。
「もう井戸に近付けないからですよ。それに術者の発した炎は、少々の水ではとても消えるものじゃない。命じられた目標を焼き尽くすから普通の火事より広がるのは遅いけど、よほど大量にないかぎり、ただの水では太刀打《たちう》ちできない。グウェンダルは地術の練達者だから、土を盛り上げて遮断しようとも考えましたが、地下への影響が大きすぎて、森が犠牲になりかねない……水を操れる術師を待つしか、俺たちにできることはないんです」
水を操る。それを自分がやったのだろうか。あの記憶のない、真っ白な時間に。
腰に手を当てて立っていたヴォルフラムが、わくわくした声で兄に訊いた。
「我々の土地に対するこの襲撃は、宣戦布告の理由になりますか」
「……まあ、理由の一端にはな」
せんせんふこく?
十五歳の日常生活では滅多に耳にしない言葉を聞いて、おれは四字熟語らしき響きを反芻《はんすう》した。せんせんふこく、センセンフコク、宣戦布告。
宣戦布告?
「宣戦布告だって!? こっちから戦争しかけようってのか!? 冗談じゃない、どうかしてる」
無視された。
「……もう少し多角的に物事を考えろヴォルフラム。正規軍の兵士が一人として加わっていないんだ。この襲撃を布告の主たる理由にすれば、奴等は村をひとつ切り捨てるだけで逃れられる。必要なのは確実性だ」
「では、奴等がこの国の辺境を思うままにするまで、指をくわえて見ていろというのですか」
「おまえら、聞けーッ!!」
横目だけでおれをとらえ、真面目に取り合おうとする様子はない。
血液が猛スピードで脳に集中しかけている。こんなときに血管を切ったら元も子もない。冷静に言葉を選ぼうとしながらも、おれの口端はひきつって、声の最後も震えていた。
「専守防衛って知ってるか!? とにかく守るだけって意味だよ! 自分から戦ったりは絶対しないって意味だよ! 現代日本は平和主義なんだ、戦争放棄してるんだ、憲法にもちゃんと書いてあるぞ!? 日本人に生まれて日本で育った、おれももちろん戦争反対だ、反対どころか大反対だッ」
コンラッドを指差し、語尾が上がった調子で言う。
「地球だって人間同士で争いがあるって、さっきおれにそう言ったよな!? あーあるさ、全然ないってわけじゃない。けどそういう時でも必ず、誰かが止めようと努力してたね! 世界の人口の大半は、平和になるよう願ってたね!」
半ば自棄《やけ》気味の叫びになる。ヴォルフラムとどちらが癇癪《かんしゃく》持ちなのか判りゃしない。
「おまえらの話の中身はどーよ!? もっと確実に戦争できるようになるまで、わざと黙って見てるだとー!?」
「……わめくな」
グウェンダルは、頭痛を抑えるみたいに顔を顰《しか》めた。だが、おれのあだ名はトルコ行進曲。
「話し合え、話し合いをしろってんだっ! あんたの国の国民が、うちの農地を燃やしました。どうしてくれます、どう保障してくれます? うちとしては絶対に戦争は避けたい、以後こういうことのないように、国内できちんと対処してくれますー? って、解決めざして話し合えってんだッ」
「わめくな異世界人!」
「いーや喚《わめ》くね、わめかせてもらうね! おれは二十歳までは日本人なの、魔王の魂もってても、成人するまでは日本国籍があんの。平和に関しちゃ日本のが、この国より優秀だと思ってるからさ、やめろって言われても言い続けるね! 戦争反対、絶対反対、一生反対、死んでも反対っ」
「では一度死ぬか!?」
「やなこった!」
やった、と思った。クールで、おれのことなど庭の小便小僧くらいにしか扱おうとしなかったグウェンダルを、こちらの議論に巻き込んだのだ。もうこうなったら、おれからは退《ひ》かない。魔王みたいな容貌で凄まれようとも。
「王になる気もないお前が、我が国のことに口を出すな! 私には眞魔国を護る責任があり、国益を考える義務がある。お前はニッポンだかいう場所のご大層な倫理と生温《なまぬる》い手段で、自分の育った国を守るがいい。だが我々には我々の、魔族には魔族のやり方がある!」
「だったらおれが変えてやるよッ。魔族のやり方だっつーのを、おれが一から変えてやる!」
この空は汚れていない、この大地は毒されていない、この森は乱されていない、この世界は美しい。だけどこの世界は、何かがおかしい。
「おまえら綺麗でかっこいーけど、性格超悪で問題あり! 人間差別とか危険な風習とか特権階級意識とか戦争好きとか。だからってもう片方の人間側が、平和主義かっていうととんでもない! 同じ人間同士なのに、魔族の土地に住んでるからって襲っていいんだって! そんなバカな話ってある!? 戦争するのに神様が力を貸してくれるって、そんな物騒な信仰ってあり!?」
「陛下」
陛下なんて呼ぶのは、三兄弟ではコンラッドだけだ。彼の、虚《きょ》を突かれたようなトパーズ・アイ。
「あっちも絶対間違ってるけど、だからっておれたちが乗せられちゃ駄目だろ。自分たちだけでも正しいことをしようよ、戦争するのは間違ってるよ」
ごめんなコンラッド、マーチはクライマックスで止まれない。酸欠でアタマがくらくらしてきた。おれたちって誰たち? おれは自分をどの集団に入れてるんだ? おれは人間だったんじゃなかったっけ。
「王様が戦争なんかダメだって言えば、国民はそれに従うんだろ?」
「陛下っ」
低く低く、おれは言った、次には怒鳴った。
「……おれが魔王になってやる……」
「ユーリ!?」
「眞魔国国王になってやらぁッ」
おれがサインをださないと、ゲームはずっと始まらない。
背後で柵に火が移った。小さな爆発を思わせる音に、女の悲鳴が被さった。
「なに……」
振り返ろうとしたおれは、身体を曲げて咳き込むことになった。右の肋《あばら》への一撃が、肺の空気を詰まらせる。
「動くな!」
羽交い締めにされて無理遣り顎を掴まれた。喉と胸に重い金属が当たり、耳のすぐ横に誰かの呼吸がある。
うずくまっていた首謀者が、女の手から武器を奪ったのだ。血で赤くなった目をギラつかせ、興奮と苦痛で荒い息を吐く。肩と足には矢が刺さったままだ。
「誰も動くなよ、動いたらこいつの喉を掻《か》っ切る」
目玉をぎりぎりまで横に向けて、男の顔を見ようとした。
「お前も無駄な抵抗はすんな!」
「わかりました……」
超弱気。
「それとも偉大なる魔王陛下様に、こんな口はきけねぇのかな。俺達みたいな下っ端は」
誰かが舌打ちした。だれだ。
おれを引きずって移動しながら、男は半ば笑いを含んだ声音で言った。
「あんたが本当に魔王だってんなら、こんなに簡単でいいのかよ。俺みたいな一介の兵卒が」
「……っ……」
「どっかに拉致しようとしてんのに。お前等、呪文の欠片《かけら》でも吐いてみろ、俺も死ぬかもしれねぇが、こいつも確実に命を落とす! どっちが先か試そうなんて気ィ起こすなよ、こっちは二十年も兵隊だったんだ」
首に熱に似た痛みが走る。恐らく、皮膚が浅く切れたのだろう。
男は魔族達から慎重に離れ、馬と水と食糧を要求する。
「死にかけたふりして聞いてりゃあ、目の前のガキが魔王だっていうじゃねーか。しかも剣も術もてんで駄目らしい、そんな魔王がホントにいんのか?」
「……しょーが……ねーじゃん……」
切っ先が触れる喉も痛むが、殴られた肋骨はもっと痛い。息をするたびに涙がでる。
「まあどっちにしろ、この世にふたつと生まれない双黒だ。たとえ王様じゃなくっても、連れてきゃ楽にひと財産稼げる。お前さん自分じゃ知ってんのかい、髪や瞳の黒いもんを手に入れれば不老不死の力を得るって、いくらでも金を積む連中がいるのさ」
聞いた。三日か、六日前に。自分自身の生死もコントロールできないのに、他人の妙薬になるなんて、そんな不条理な人生があるか。おれはぎゅっと目をつぶった。
さっき怒鳴っちゃってごめんなさい、謝るから今は助けてください。一生懸命、眼で訴えたが、味方は誰一人として手を出せず、遠巻きに囲んで息を飲むばかりだ。
馬が牽《ひ》かれ、鞍袋《くらぶくろ》に少量の水が入れられる。
もしかしてこの一瞬が最初で最後のチャンスなのか? 二人同時には絶対に乗れない、まして人質に刃を突きつけたままでは。だとしたら、今しかチャンスはないのか?
「乗れッ」
男はおれの背中に剣を回した。背後から貫けるよう構えている。一人では乗れないと打ち明けるわけにもいかず、恐る恐る鐙《あぶみ》に足を掛けた。
右足が鞍を越えようとした瞬間だった。
小さい黒い影が素早く近付き、男の足に突き立った矢を引き抜く。
男が蛙みたいな悲鳴をあげる。刃が茶色い皮を傷つけ、臆病な葦毛が高く嘶《いなな》く。前肢《ぜんし》を持ち上げて「荷物」を振り落とし、恐怖から逃れようと走りだす。
「やば……っ」
宙に身体が浮いたと思ったら、地面とは違う硬さの上に落ちた。さっきの肋骨がまた疼き、酸素が吸えずに苦しんだ。
「……っえ……ッ」
胸を掴んだ指に、暖かいものが降りかかる。
血だ。
逆光でコンラッドの背中は影にしか見えない。彼の足元にも影の塊があった。
男が二つに折れて倒れていた。新しく赤い血を流して。
「……死んだの?」
「さあな」
身体の下から声がして、慌てて草の上に尻をずらす。グウェンダルが、服についた泥と灰を払っていた。なんでこの男が、おれの下敷きに。疑問を口にする余裕はない。
恐らく葦毛に弾き飛ばされたのだろう、小さな恩人の惨めな姿が目に入ったからだ。
もうそこには炎が迫ってきていた。俯《うつぶ》せに横たわる少年は、熱さにもかかわらずぴくりとも動かない。
「……おい……」
突っ立てた金髪、子供達のなかでは体格がいいほう。
「ブランドン」
「ユーリ、危険だから俺が」
コンラッドの腕を振り切って、おれはよろよろと炎に近付いた。子供が、人間が燃えてしまう、誰かが放った悪意の炎のせいで、消せない卑怯な炎のせいで。
「ブランドン!」
脇から大きな火が飛ぶのを、コンラッドがどうにか薙ぎ払った。
「ブランドンっ!?」
仰向けた少年を膝に乗せる。薄く目を開き、唇を動かした。生きてる!
「……へいか……」
「陛下なんて呼ばなくていいんだよ」
「……でも、王さまに……なるんで……しょ……」
「ブランドン」
この村を守ってやる、お前たちを守ってやる、そう約束して、約束する。
ぽたりと、子供の頬になにかが落ちた。
「約束する」
「なげ、る……の……も、おしえて……くれ、るんで……しょ?」
「約束する!」
叫びとシンクロするように、耳を劈《つんざ》く突然の雷鳴。
三半規管の奥の方で、甘く優しく嬉しげな囁き。
我等の最後のひとしずくまで……
雨が地面を叩きだす。
滅多にないような豪雨だった。