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[分享]日本流行动漫小说《今日からマ王!》(从今开始魔王)第一卷(完)

楼层直达
级别: 骑士
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2002-05-08
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1小时
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1166
只看该作者 15楼 发表于: 2005-08-05
引用
最初由 鈴木紫心 发布
有个问题,有哪位大人知道这部动画总共有多少集吗?谢谢!

现在还在播所以还不清楚总集数。。只知道第一部39集,第二部现在播了十几集了吧~~~
引用
最初由 魔神修 发布
这个要日语几级能大约看懂啊?

我觉得2级就可以了~~~



 おれは泣きそうになっていた。
 信じられない、どうしてこんなことになるんだろう。パーで叩いたら求婚で、ナイフを拾ったら決闘だって!? おれの中の常識では、求婚には赤いバラで決闘には手袋なのに。この国の作法を知らなかったばかりに、生と死の岐路に立たされてしまった。
「ああああああああ」
 ごろんごろん転げ回っても落ちないほど、お城のベッドは広かった。あまりに広すぎて淋しいくらいだ。女の子がぬいぐるみを持ち込む気持ちが、齢《よわい》十五にして初めてわかった。
「どーする、おれ。この局面をどう切り抜ける!?」
 気を静めて、人生においてもっとピンチだったことを思い出そうとする。今よりもっと、危機的状況に陥ったときのこと検索中……該当事項なし。
「ねーよこんなにヤバかったことは! 普通ないって! 決闘とか!」
 落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着けっ。敵にやられる前に自分自身に痛めつけられてどうする。
 さっきギュンターが涙と鼻水で苦しみながら教えてくれた。敵の死を以《もっ》て勝ちとする決まりは、何百年も昔に廃れているらしい。現在の決闘は単にプライドの問題だけで、命を落とすことは滅多にないと。
 そう、滅多に。
 例外もあり。
 無意識に枕を両足で挟んで、おれは大声で「どうするっ」と嘆いた。お返事みたいなタイミングで、厚い扉が叩かれる。
「陛下」
「なに」
 コンラッドが、いろいろ抱えて入ってきた。
「よかった、陛下、まだお休みじゃなかったんだな。足に何を挟んでるんです?」
「あ? ああこれ、なんか落ち着くような気がして。とても眠れそうな気分じゃないからさ」
「でしょうね。だろうと思って持ってきました。さ、陛下、練習練習」
「練習ぅ?」
 渡されたのは革の盆と棒で、盆は裏を握ると盾になり、棒は鞘から引き抜くと練習用の剣になった。
「利き腕に剣を持ってください、そうこれは片手剣なので、左には軽めの盾を持つんです。振ってみて。どうですか? 重すぎて持ち上がらなかったら言ってください。これでも女性用のなるべく短いのを、慎重に選んだつもりですが」
 片手で振り回すには少々重かった。鈍い銀色のシンプルな武器は、柄の部分を握った感じが、持ち慣れた道具によく似ていた。
「グリップ部分がバットみたいだな、これ。でも重さは金属バットどころか、プロ仕様の木製なみだけど」
「なるほどね、気が付きませんでしたよ。バットか、そうかもしれないな」
 もう随分長いこと野球をやっていない。ボールもバットもマスクもミットも、もう随分長いこと触っていなかった。
「なっつかしいなぁ、この握り具合。もうすぐ一年になるもんな」
「どうして辞めちゃったんですか」
「ええ?」
「野球」
 腕組みをして訊いてくる顔には、どこか楽しげな笑みがあった。おれは剣を膝に置いて、そのまま仰向けにベッドに倒れる。
 懐かしい記憶。今となっては腹も立たない、けれど微かに胸の痛む記憶だ。
「……さっきみたいにカッときて、監督殴って即刻クビ」
「それはチームを辞めた理由だろ? 俺が訊きたいのはチームじゃなくて、野球をやめた理由だよ」
「野球をやめたのは……なんでだろ。自分でもはっきりとは説明できないな」
「じゃあ、まだ、やめてないんじゃないの?」
「はあ?」
「引退してないんじゃないかってこと」
 サンタクロースかマジシャンみたいに、コンラッドは掌《てのひら》に丸いものを出した。使い込まれて黄ばんだ革に、擦り切れかかった赤い縫い目。
「ボールだ! おいおい、すげぇ大発見! この国の硬球って日本と超そっくりじゃん!」
「軽ーくやってみましょうか? 投げ心地も同じか確かめるために」


 中庭は四方を建物に囲まれていて、全ての窓からやわらかい光が降り注いでいた。空には月があり、地上には明々と燃える松明《たいまつ》が、黄色い半円を描いている。
 観客は、要所に立つ哨兵《しょうへい》だけ。けれど。
「ナイターみたいだ」
「ナイター? ああ、ナイトゲームのこと」
「この国にもナイトゲームなんて言葉あんの? どっかで夜に野球すんの?」
「しないな。ていうよりベースボール人口が極端に少ないっていうか……俺と子供たちだけしか興味がないっていうか……」
 コンラッドに渡されたのは、彼の私物だというグラブだった。案の定、グラブだ。ミットではなく。ま、しょうがないかと呟きながら、人差し指を外側にして、茶色く固い革を握ってみる。やや型式が古いとはいえ、ほとんど新品の内野手用だ。おれはゼットの心の師匠モデル愛用だけど、これはミズノでもデサントでもなかった。もちろん世界が違うんだから、知ってるブランドのはずがない。だがこの見慣れたブーメランマークは……。
「……ナイキ……まさか」
 十メートル以上離れたところから、コンラッドが大きく手を振っている。
「陛下、軽くいきますよ」
 顔の斜め上にかかげたグラブに、パチンと硬いボールが入ってきた。革と革がぶつかり擦れる独特の感触。掌の中心に集まってきた衝撃が、うずくようにゆっくりと肘《ひじ》まで伝わる。
「硬球だぁ」
 そりゃそうだ。でも感動的。今までずっと軟式だったから。
 右手に握りなおした硬球は、案外なめらかで引っ掛かりがなかった。よく見ると今にも消えそうな線で、文字らしき何かが書いてある。魔族の字が読めないのは当たり前だけど、ボールにお名前入りなんて、外見に似合わず子供っぽい。ゆっくりと腕を後方に引き、軽いスナップで返球する。思ったより距離がなかったので、相手のグラブはいい音をたてた。
 昼夜の寒暖の差が大きくて、春だというのに息が白くなる。フィールド・オブ・ドリームスのワンシーンみたいに、ウォームアップを念入りに続けてから、おれはコンラッドの顔色をうかがい、楽しんでいるのを確かめてから言ってみた。
「ちょっと座ってみようかな」
「座るって?」
「そうだな、えーと、あと六歩離れて。よーしいいぞ、そっからここめがけて投げてみな」
「遠いですよー、陛下ー」
「いーんだよもう高校生なんだからっ! ほらど真ん中、直球こいよ!」
 腰を落として、足の裏の一部に力を入れる。来たボールは強烈なワンパウンドで、膝をついて両足の間で捕球する。とんでもないフォームから投げられたにしては、重さもスピードもなかなかだ。
「だーれに教わったんだよそんな投げ方ッ」
 おれは走っていってボールを突き返し、彼の指の位置からしていい加減なことに驚いた。
「こんなんであれだけスピードがでりゃたいしたもんだよ。それにしても一体どこで、だれにこんなデタラメ教えられたんだ」
「誰にも教えてもらってないよ。勝手に野球の試合を観《み》て、自分でこんな感じかなって覚えたんだ。握り方とか詳しい投げ方は、遠くから観ただけじゃ解らないんで」
「試合があるってことは練習もあるんだろ? だったら指導者もいて生徒もいるんだろ。いいか、ボールは三本指でこう持つの、基本は縫い目に指を乗せるの」
「なるほど……え、これで強い球が放れるもんなんですか」
「当たり前だろー!? そんなしっかり握っちゃったら、手から離れなくて大変じゃん。試合ってさぁ、どこでやんの? この国にもやっぱスタジアムとかあんの? 金曜の夜の国民の娯楽は、ビールとナイターとジャイアンツだったりすんの?」
「ジャイアンツはナ・リーグなのであまりよく知らないんですが……でも陛下、この国に野球はないんですよ。俺が試合って言ったのは、我が国のことではありません」
 いい加減な生返事を口にしながら、おれは脇にグラブを挟み、コンラッドの手を握って説明していた。ほら、これがフォーシーム、縫い目と交差するとホップ気味になるから。この世界の野球事情を聞くよりも、教えることに熱中していた。
「ワインドアップで体重移動してる? でないと軸足がしっかり着かないぜ。この時も目線は目標を見たまま、おれのミットから逸らさないこと。で、ストライドが短いのは本人が回数投げて、一番いいところみつけないと。フォロースルーは妙に大きいけど……」
 言っているうちに、なんだか嬉しくなった。相手の指や肩を掴んで、言葉どおりに動かしていると、子供の頃の自分が甦り、胸があたたかくなってきた。
「……こんなだったのかなあ」
「何がです?」
「こんなだったのかなぁと思って。おれが教えてもらったときも。十歳かそこらの頃なんだけど、プロ選手が来てくれる一日野球教室なんてのがあってさ。当時泣く泣くキャッチャーをやってたおれは、親父のコネだか抽選だかで、その会場に紛れ込んだの」
 特に身体が大きいわけでも、精神的にしっかりしているわけでもなかった。単に父親の一言で、ポジションを決められた小学生は、向かってくる速球も怖かったし、突っ込んでくる走者も怖かった。ちゃんとマスクはあるんだけど、やっぱり顔の前にくると怖いんです。捕手にしてはスラリとしたプロ選手に、おれはうなだれてそう打ち明けた。
「怖いなんて言ったらさ、適性がないんじゃないかってことになりそうだろ? けどその人はおれをしゃがませてね、自分もおれの後ろに座って、こう、なんていうか抱え込むみたいにして、手を持ってミットの位置を決めてくれてから、近くにいた投手を呼んだんだ」
 百八十センチ以上あるプロの投手が、大きく振りかぶって足を上げ、青のグラブの中で握られたボールは、長い指で宙に押し出された。いま考えてみれば山なりの超スローボールだったに違いない。けれど新品の真白い軟球が、自分のミットに飛び込んだあとも、おれは瞬《またた》きするのも忘れて、その場に座ったままだった。
「で、おれの肩ごしに、師匠は訊いたね。怖かったか、って。けれどこれでもうおれは……」
『きみはもうプロの球も捕れるようになった。それでもまだジュニアの選手が怖いのか?』
 おれはコンラッドの手の中を見ながら、あの日の風を思い出した。まだ屋根がなかった。陽光が直接キャップに当たった。
「……忘れられないんだよなー、あの感触が」
「師匠って人のぬくもりが?」
「ぬくもりじゃねーよぬくもりじゃ! それにおれが勝手にココロの師匠にしてるだけだし、その一回っきり喋ったこともないのっ、運悪くサインももらえなかったの!」
「けど陛下はその……師匠のチームのファンなんだ」
「あったり前だろー!? 携帯の着信も一時期は球団歌だったし、中継は必ず最後まで見るし、土日はFMでチェックするし、ファンクラブ入って球場にも行くし。記事のスクラップなんか今年で四年目だし、保存ビデオも増えちゃって……あんたはどこのファンなの? こっちではチーム名とかどうなってんだろ」
 コンラッドが、意味ありげな表情で腕を組んだ。
「ボストン・レッドソックス」
「レッドソックス!? 大家! オレラーノ、ウォルコットクラークローズ、近鉄のほう!」
「誰です? 知らないな」
「だってパで……おれの世界で活躍してるレッドソックス出身者だもん。なんだ、こっちの世界にも同じチーム名があるんだなぁ、そーいうのもアリかもね、タイガースだってジャイアンツだって日本とアメリカ両方にあるんだもんな、日米野球なんか混乱するよな、カブス対ジャイアンツなんて、国籍ぜんぜん違うのに……」
「ジャイアンツ、ナショナルリーグですからね」
「リーグ名まで一緒なの? それにボストンって地名まで……そんなはずないよな……」
 考えてみれば、この男は妙だ。自分と話が合いすぎる。おれはボールを掴んだままで、まじまじとコンラッドの顔を見た。指は無意識に危険な握りになっていて、人差し指がひきつった。
「ギュンターには全然通じないことを、あんたはけっこう知ってるよな。メリーゴーランドとか、おれの親父のこととか……そのうえレッドソックスってのは……どういうことだ? さっき、この国のことじゃないって言ったよな。じゃあどこだ? この世界のどこの国が、どこの人間社会が野球好きなんだ? どこにボストン・レッドソックスがある?」
 そんなはずが。
「地球、アメリカ、マサチューセッツ以外のどこに!?」
 そんなはずがない。
 コンラッドはグラブのまま両手を広げ、首を振ってNOの意志表示をした。
「どこにもない。地球、アメリカ、マサチューセッツ以外のどこにも」
「じゃあ、何で」
「行ったからです」
「行ったって、どこに、誰が」
「俺がボストンに、行ったからです」
 ボストンに?
「ボストンだけじゃない、色々な所に行きました。ワシントン、スタッテン島、ニューハンプシャー、オーランド、ケベック、エジンバラ、ウェールズ、デュッセルドルフ、シェルブール。陛下の魂を大切にお護りしながら、あなたの育った世界に行ったんです」
 地球の歩き方、異世界からのお客さん編。
「十七年前、前世の傷をすべて癒して、真っ白になった陛下の魂をお護りしながら、俺はあなたの生まれた場所、アメリカ合衆国に行ったんです。そこでベースボールの楽しさを知って、未来の魔王が無事に生まれるのを見届けてから帰ってきた。陛下の母上はそれはもう気丈な方で、今にも生まれそうだってのに、タクシーの運転手を怒鳴りつけてました」
「まさか……まさか相乗りの名付親!?」
「採用されちゃうとは思いもしなかったもんで……」
 じゃ、十五年間からかわれ続けた渋谷有利原宿不利は、二十%くらいは彼のせいだったのか。残りの大半は漢字を決めた両親のせい。

「その話が本当だとすると、おれは母親の腹の中にいた時に、あんたと接触してるわけ?」
「そういうことになりますね」
 こんな奇妙な話が、あっていいものだろうか。十五年前に母親が会ったのと然《さ》して変わらないような年格好で、おれの因縁の名付親が、すぐ目の前で笑っている。おれのこと陛下なんて呼んでいる。
「十五年間ずっと待ってたんだ」
 彼はグラブを外して脇に挟み、おれの手をボールと一緒に包み込んだ。
「直接、陛下とお会いできる日を」
 おれの左脳の会話ストックの中では、その節はどうもとか母に成り代わってお礼申し上げますとか、そういうオーソドックスな候補が用意されていたのだが、彼のとても人間っぽい表情を前にしたら、どう抗《あらが》っても右脳が勝って、もう他に言葉がなくなってしまった。
「……陛下なんて、呼ぶなよ、名付親のくせに」
「ユーリ」
 だってそうだろ、あんたがつけた名前なんだからさっ! それでもまだ照れを隠すために、おれは裏返った声で続けなければならなかった。ちょっとじんときちゃってたから。柄にもなく感動なんかしかけてたから。
「それにっ、生き別れの兄弟みたいな言い方すんなよっ! 実質的には昨日が初対面なんだからっ。あんたはおれの名前を知ってたかもしれないけど、おれの方は相乗りの人としか聞かされてなかったんだから。まあその時、荷物かなんかに名前でも書いてあれば、おふくろも覚えておけたかもしれないけどさっ、ほらこの」
 握ったボールを突き付ける。
「所有者ネーム入りベースボールグッズみたいになっ」
「……それは俺の名前じゃないよ」
 なに?
「グラブは持ち帰ろうとして自分で買ったものだけど、ボールは球場で貰ったんです。別に頼んだわけじゃないけど、遠征で来てた敵チームの若手が、サインしてやろうかってぱっと取ってサッと……」
「なななななんだよお前っ、偉大なるメジャーリーガーのサインボールで、おれとキャッチボールしてたのか!? 誰、誰のサイン!?」
 消えそうな文字は、英語と教えられても判読できない。メジャーの神様だったらどうしよう。
「なんですか、そいつは陛下よりも偉いんですか」
「ああああたりまえだろーッ!? 三年間補欠だったおれなんか甲子園めざすのも気が引けるってのに、その甲子園どころか、プロの選手でさえかなわないような……なあ、この世界にはまだ野球があんまり広まってないんだよな」
「あんまり、どころか、俺と子供たちくらいしか」
「てことは、今現在、おれがだんとつトッププレーヤー? 試合で間違いなくスタメン起用? 眞魔国のイチローとか呼ばれるのおれ? でもおれポジション、キャッチャーだから、あっもうどうしようポスト伊東なんて言われちゃったらッ」
「それどころじゃないですよ、陛下の場合、確実に選手兼コーチ兼監督兼審判兼、オーナーということに。国営チームということは、やっぱり国王がオーナーですからね」
「国王か! 国王ねぇ、だったら魔王もいいかもなー」
 コンラッドは真っすぐに視線をあわせて、薄茶の瞳を細めて言った。
「よかった、陛下。少しでもお気持ちが晴れて」
 気持ちは晴れないよコンラッド。でもなんか、何か浮かびそうで浮かんでこない。
「ええっ、てことはおれが国王なんだから、野球を国技にするってのはどう? 渋谷有利記念スタジアムとか造ってさぁ、第一回渋谷杯争奪トーナメントとかやっちゃうの!」
 脳味噌を何かが横切った。

我的网上小窝“夢のパラダイス”
http://blog.hjenglish.com/cyqm/
一个关于动漫游戏、日语翻译、生活点滴的blog,欢迎大家常来坐坐~~~
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只看该作者 16楼 发表于: 2005-08-06
原来还在播啊,怪不得,谢谢大人了!继续期待!\(^-^)/

できれば、誰も傷つけたくないんです
级别: 骑士
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只看该作者 17楼 发表于: 2005-08-06


 横切ったのは鳥だった。
 環境汚染されていない朝の空気を思い切り吸おうと、部屋の窓を開けたとき、サファイアブルーの羽とオレンジ色の長い尾を持つ鳥が、バルコニーのすぐそばを横切った。美しい姿と、「エンギワルー!」いやな鳴き声。
 朝食は各自でとってもいいらしく、部屋に運ばれてきたパンやチーズを、おれは非常識なくらい腹に詰め込んだ。体育会系の食事なんて、ここだけのはなし質より量だ。最高級素材のモルトブロートより、百円の菓子パン食い放題に惹かれる。だから昨夜のレアステーキなんか、燃料の足しにもなりゃしない。
 主食だけでも三人前はたいらげたあたりで、ギュンターがげっそりとした顔で現われた。髪も服も彼らしくきっちりしているが、赤くなった目の下にはくまができている。四杯目の牛乳に紅茶を入れながら、おれは、おはようと右手を上げた。
「おはようございます陛下。ご機嫌うるわしいようで、何よりです」
「あんたはご機嫌うるわしくなさそうだね。ろくに寝てないって顔してるよ」
「はい、本日の……決闘のことを考えておりましたら、よい案も浮かばぬままに夜が明けてしまいました……」
「そいつに関しては、おれもちょっと考えたよ」
 一生懸命考えた結果、もうこれ以外にないでしょうという作戦に辿り着いたのだ。これで負けたら勝てる種目はない、いわばおれにとっての最終兵器だ。
「コンラッド起きてっかな、借りたいもんがあるんだけど」
「今朝早くに、調達するものがあるとかで街に出掛けましたが、正午までには戻るでしょう。それより陛下、どうなさるおつもりですか? ヴォルフラムは兄二人よりは華奢《きゃしゃ》ですが、ああ見えてなかなか剣も立ちます。炎術《えんじゅつ》においては母方の血を引いて、この国でも有数の使い手です。迂闊《うかつ》な方法で挑まれては……」
 当事者以上に沈痛な声で、ギュンターは言葉をつまらせた。
「そんなに深刻な顔されてもなぁ。だって昨日、滅多に死なないって言ってたじゃん」
「申しました、確かに、申しましたが……」
「おれだってどう考えてもかなわないような、剣とか魔法で勝負する気はないよ。そこら辺は戦術、戦術っ。相手の裏をかかないとさ」
「では一体、どのような武具で……」
 あっというまに太陽が真上にきて、正午を報せる管楽器が鳴った。これを機に時刻を合わせようかと、アナログGショックをいじってみる。しばらくそうやって時間をつぶしてから、急《せ》かすギュンターを従えて部屋を出た。街から戻ったコンラッドには、入り用なものを借りてある。
 約束どおり中庭に出ると、哨兵《しょうへい》は最小限に減らされて、プライベートな勝負の様子が漏れないようにと、中央に面した窓も閉められていた。特等席のバルコニーにはツェリ様が陣取り、おれを見つけてにこやかに手を振った。グウェンダルは腕を組んで壁に寄り掛かり、決闘の相手であるヴォルフラムは、椅子に座ってふんぞり返っている。
 神経質な奴だから、なかなか姿を現わさない敵に、かなりイライラしているはず。その苛立ちで集中力が乱れるという「待ちかねたぞ武蔵」大作戦。かなりせこい。
「お前がぼくに打ち据《す》えられて、泣きながら許しを乞う姿を想像してみた。そう考えると待ち時間も楽しいものだな」
 なんかあんまり苛立っていない。宮本武蔵作戦、大失敗。
「おれが負けるって決まったわけじゃないだろ? 十五年間眠ってた格闘センスが、これをきっかけに目覚めるかもしれないじゃん」
 自分が苛立ってどうする。落ち着け、落ち着け。
 蝋《ろう》で石畳の部分にぐるりと円を描き、おれはその外側で準備を始めた。ヴォルフラムの顔色が変わる。
「なぜ服を脱ぐっ!?」
「なに言ってんだよ、お前も脱げ」
「ぼくが!?」
「そうだ。相撲は『はだか』がユニフォームだからなッ」
 そのためにコンラッドから新しい下着を借りたのだ。庶民はトランクス型を穿《は》いているが、金持ちや貴族の間では、例のヒモパン着用がステイタスとされているらしい。バリバリ貴族のヴォルフラムなら、ほぼ確実にヒモパン派だろう。彼の下着姿が見たいわけではないが、あんな脱げやすそうな構造だ、もしかしたら取り組み中に外れるかもしれない。そうなってしまえばこっちのものだ。土俵上で脱げたら即座に負け。そういうルールがちゃんとある。
「相撲とは、男と男がまわしいっちょでぶつかり合う超重量級格闘技だ。その土俵から一歩でも出るか、足の裏以外が地についたほうが負けとなる。由緒正しい伝統的なスポーツだ!」
「マワシ? ドヒョウ?」
 ユーリ陣営のギュンターまでが困惑顔。コンラッドだけが「ああ、ジャパニーズスモウレスリングね」と納得している。アメリカで少々かじってきたのだろう。
「ほら早く脱げよ」
「男と男が、は、は、は、裸でぶつかり合うだとぉッ!?」
「そう。弾む肉体、飛び散る汗」
「ふざけるなッ! そんな野蛮で淫らな競技をぼくに挑むというのか!?」
「みだら!? 失礼なこと言うなよっ、日本の国技だぜ? 殺し合いよりずっといいだろ」
 ツェリ様がバルコニーで大きく手を振る。
「あたくしはぁ、その競技ィ、だーいすきーィ」
 熱烈な投げキッス。
「……しょーがねーな、じゃあ服は着たままでいいよ。早く円の中に入れよ」
 だったら普通の拳闘《けんとう》と同じだと思ったのか、ヴォルフラムは偉そうに土俵入りしてくる。ひとりだけ雲龍型《うんりゅうがた》とかを披露するわけにもいかず、おれも上着を脱いだだけで線を越えた。
「みあってはっけよいとか説明してもわかんないだろうし……じゃあさっきのラッパを始めの合図にするか。いいな、一回きり、ガチンコだかんな、ヴォルフラム……さん」
 どこまでも弱気。呼び捨てにさえできないおれ。
 急遽《きゅうきょ》、望楼《ぼうろう》に指示が行き、高らかな「開始」が告げられる。
 最初から低い姿勢で構えたおれの方が出足が早く、虚《きょ》を突かれたヴォルフラムの腰にぶちかまし。廻しの代わりにベルトを掴む。勝負は一瞬でついた。四つに組む間もなかった。
「うりゃ」
「……っ」
 足を払ったつもりもないのに、敵が仰向けに転がっていた。
「……あれ?」
 何が起こったか理解できずに、口を半開きにしたままで間抜けに転がる美少年、真上には青空。一昨日のおれも、こんな感じだったのだろうか、気の毒に。憎しみも敵意もどこかに忘れて放心状態のヴォルフラムは、魔族のエリートというよりも、悪魔に騙された天使みたいだ。などと同情してはいられない。ゆっくりと実感がわいてくる。もしかして、おれ、勝った? 相撲のルールは足の裏以外の身体の一部が……一部どころか転がっている。
「っしゃぁッ! おれ勝ったんだろ!? 勝ったんだよな!」
 軍配に尋ねれば、YOU WIN。
「勝ったぞ勝ったぞ勝ったぞ勝ったぞーっ! うぷ」
「陛下ッ! ご立派な戦いぶりでございましたッ」
 早くも涙ぐむギュンターが、冷静さを失って勢いよく抱きついてきた。
「てゆーかおれの戦略勝ち! アタマアタマアタマ、ここ使わないと」
「双方ともに一滴の血も流さない、陛下の慈悲深さゆえに生まれたこの決闘は、我々魔族の美談中の美談として、後の世まで語り継がれることでしょう」
「美談っつーより笑い話として、語りぐさになりそうな気はするなぁ」
「これでことがおさまれば、いいんだけど」
 一人だけ冷めた様子のコンラッドは、転がったままの弟に手を差しだしながら呟いた。みるみるうちに白い肌が朱に染まり、敗者は兄の手を払う。
「こんなバカな勝負があるか!」
「ヴォルフラム」
「異界の競技で勝敗が決められてたまるか!」
 少しでも同情して損をした。彼はまったく懲りていない。屈辱感は怒りに油を注ぎ、敗北の事実さえ燃やして消してしまったようだ。
「いいか、お前! お前はこの国の王になるつもりなんだろう!? だったらこの国の方法で勝負をしろ! 魔王なら魔王らしく、魔族の決闘で勝負しろと言っているんだ!」
「ちょっと待てよ、おれの好きな方法でいいって、そっちが先に言ったんだろ。それを自分が負けたからってなんだよ。往生際が悪いだろ。そーいうの男らしくないんじゃねえ?」
「うるさい! 誰か、ぼくの剣を持て」
 兵の一人が走ってくる。おれは大慌てで、声まで裏返った。
「おいおいおい待て、ちょっと待て、まじで待てよっ、そんな本物の刀つかったら死んじゃうだろ!? 負けたからって本気になるなよ」
「ではお前は今のくだらない勝負、本気ではなかったというのか」
「くだらない言うなーッ」
 だんだん夫婦漫才めいてきた。ギュンターが仲裁してくれようとする。
「ヴォルフラム、あなたから提示した条件ではありませんか。これ以上の身勝手な要求は私としても聞き流すわけにはいきませんよ」
「ではどうする? そいつの代わりにお前が勝負を受けるのか。新魔王を名乗る男は、一対一の勝負に部下の力を借りるというのだな?」
 口の減らない野郎だと思いながらも、おれは感情とは別の部分で、今までしたこともないような、奇妙な計算を始めていた。こんな知恵がどこからわいてきたのかも、頭の、脳味噌の右と左のどちらで考えているのかもわからない。ただいつのまにか周囲を見る眼が……いや、変化していることさえ、自分自身はっきりと意識できていなかった。決闘中の相手から目を離さずに、おれは横にいるコンラッドに尋ねる。
「もしもおれが魔王になったとして、あ、万一の話だよ万一の。そうなったとしたら、あいつは味方になるんだよなぁ」
「もちろんです」
 コンラッドは深く頷く。弟だからというだけではない。
「あいつって、どういうやつ? おれを憎んで逆恨みして、そういう理由で裏切るやつ?」
「いいえ」
「じゃあ大きな目標のためなら、嫌いな奴とでも組めるタイプ?」
「ヴォルフラムに関して申し上げるならば、どんなに嫌いな相手であっても、それが魔族のためになるなら、最終的には妥協すると思います。あいつは魔族であることに誇りを持ってる。そして魔族がこの世界の頂点に立ち続けることを望んでる。そのためになると認めれば、嫌いな相手にでも従うでしょう」
「なるほど」
「もうひとついいですか、グウェンのことです。彼はこの国を誰より愛してる。俺なんかよりも、ずっと真剣に。ただし彼の愛情と献身は、魔族と眞魔国にしか向けられていない」
 疼《うず》く傷を抑えるような。
「……それが問題なんです」
 彼の言葉を信じるならば、ヴォルフラムは味方だ。今は紅白戦で敵対していても、いずれは同じチームになる。計算と感情が一致した。
「わかったよ、練習用の剣に換えてくれ。やんなきゃあいつの気が済まないなら、さっさと片付けるしかないよな」
 傷つけられたプライドは、真剣勝負でしか戻らない。
「正直、剣道素人だから勝てっこないよ。でも今度おれが負けたとしても、一勝一敗で引き分けだろ。もともと勝ち目のない勝負だったんだから、おれとしちゃイーブンで上出来じゃないの?」
 引き分けで停戦できるのなら、チーム内で諍《いさか》うことはない。
「こうなるだろうと思った」
 コンラッドは壁に立て掛けてあった剣と盾をとり、おれに渡してからギュンターを呼んだ。その頃には年長者も巧みな言葉で、向こうの武器を訓練用に代えさせていた。
「陛下、ご安心ください。巨大で強力には見えますが、刃はなく斬れることもございません。頭部に当たれば陥没する程度で、心臓をえぐったりはできません」
「頭蓋骨陥没ってだけで、かなり天国に近くなると思う……」
 服のボタンを二個くらい外して、コンラッドが首に掛けていた革紐を引っ張った。五百円玉と同サイズの、銀の縁取りと丸い石。
「陛下、これ」
 空より濃くて強い青。
「ライオンズブルーだね」
「俺の……友人がくれたものです。ある種のお守りだと聞いていたけど、今朝がた街で尋ねたら、これはもともと魔石なので、魔力のある者にしか効果がないらしい。運でも防御でも攻撃でも、何かの役に立てばいいけど」
「くれるの?」
「ええ」
 わざとらしい咳払いで教育係が割り込む。
「お収めになるときは御注意下さい。陛下にその気がおありでないとしても、捧げ物を受け取るという行為は、その者の忠誠をも受け入れるということです。私やコンラートはかまいませんが、知らないところで忠臣をお増やしにならないように」
「迂闊に物をもらうなって? なんだよ選挙みたいだな」
 胸にかけると、石の部分がわずかに暖かい。霊験あらたかというよりは、前の人の体温の残る便器に座っちゃったような感触だ。おれは昨夜、生まれて初めて触った剣を右手に盾を左手に、灰色の硬い土に立ち上がった。
 ヴォルフラムは盾を持たず両手剣をかかげ、バッターボックスのイチローみたいにこっちを狙っている。
「あれほんとに訓練用なんだろうな……」
 剣というより、ものすごく活《い》きのいい太刀魚《たちうお》だった。それか冷凍の新巻鮭《あらまきざけ》。あんなものを振り回されたら衝撃だけで場外ホームランだ。やる前から腰が引けてきた。
「な、なるべく早くギブアップするつもりだけど、もしおれが一撃でやられちゃって口きけそうになかったら、さっさとタオル投げちゃってくれ」
「ギブってなんですか? タオルってなんですか」
 コンラッドがにわかアメリカ人風に答える。
「OK、ユーリ」
「準備はできたか、異世界人!」
 勝手にあっちにやっといて、そんな呼び方はないだろう。
「おれの名前は渋谷有利。よかったらサマをつけてくれてかまわないぜ」
「ふざけるなッ」
 勝負はいきなり始まった。走ってきたヴォルフラムが大きく振りかぶり、おれめがけて新巻鮭を打ち降ろす。一瞬の反射でおれは真下に移動し、身体の中央に盾をかざす。鉄球でも食らったかのような衝撃が、がつんと全身に伝わった。外野が必死に叫んでいる。
「陛下っ、よけてください、よけてっ! 正面で受けたら危険です」
「よけいな助言はやめておけ、ギュンター。慣れないやつが腕だけで受けたら、一度で骨が折れちまう。本能的なものだろうけど、陛下の判断は正しいよ」
 判断なんて理性的なものではなくて、単に長年の癖だった。とにかく身体の正面で受けろ、かぶっておさえてでも前に落とせ、後逸《こういつ》だけは絶対にするな。要するに、自分のポジションの仕事だ。
 こちらが返球するまでもなく、すぐにまた次の攻撃がくる。もう一度、上段からストレート。盾で吸収しきれずに、左腕と肘と肩がじんと痺れる。続いて右サイド、再び上。
「どうした、なんのために剣を持たされている!? 右手が無駄に下がったままだぞ! それとも恐怖で動かせもしないか」
「っるせーなッ」
 落ち着け、焦るな、渋谷有利。
 目の前に重い鉄の武器がくる。真昼の陽光にきらめいて、銀の流線が描かれる。冷静になれ、腕が痛い、バランスを保て、重心を低く、まばたきできない、する間がない、前傾《ぜんけい》姿勢だ、攻撃に転じる隙を、剣道でいうなら面、面、胴、汗が目に入る、面、面、胴、染みる。
 ビビってんじゃねーぞ、おれ。けど、やっぱり顔の前にくると怖いんです、振りかぶって上段から、きみはもう……。
 きみはもうプロの球も捕れるようになった。それでもまだジュニアの選手が怖いのか?
 あの日の風。
 まだ屋根がなかった。
 もう怖くない。
「お前のスピードじゃ怖くないねっ」
「なんだと!?」
 思い切って跳ね上げた盾を手放し、相手の体勢を崩させる。その隙に剣と柄を両手で握り、自分を守るよう前に振り出す。
「ああっご自分で盾を捨てられるなんて。ああもう見ていられませんよコンラート。たおるだかオマルだかを、早く投げてさしあげて」
「まだだ。陛下はヴォルフラムのリズムを読んでるぞ。基礎のできた模範的な攻撃だからこそ、次にくるコースが予測できるんだ。ほら、かろうじてだが剣で止めている。それに俺、タオルなんか持ってきてないし」
「ええっ」
 コンラッドの指摘したとおり、おれには次に狙われる場所が読めてきていた。けれどそれは基礎とか模範とかのせいではなくて、敵の性格が判ったからだった。
 食事の順番が決まってた。それも一度の狂いもなく。そしてさっきからずっと同じリズム。緩急つけないピッチングは、やがては読まれて長打を食らう。同じことだ。
 顔の前で金属がぶつかり合い、火花が散るのに歯を食いしばる。グリップエンドに乗せた小指が、最後の振動で軽く痺れた。
「……もしおれが監督だったら、お前は絶対ファーム落ちだなっ、だって投げてくるタイミングがっ、最初からずっと同じだぜッ!? そんな芸のないピッチャーは……っ」
 サイドから立て直す間には、他よりコンマ数秒余分にかかるはず。おれは右足と同時に肩を引き、スクエアに構えて剣を四十五度に倒した。
 テイクバック、相手の踏み出しと同時に左足をシンクロさせ、バットに、いや刃と刃が当たる瞬間に親指に力を加えて、決して腰を引かない、けれど打ち急いで前のめりにもならない、身体の軸を固定したままで。
「……っ!」
 最後まで振り抜く!
 キーンと、聞き慣れた金属バットの音がした。両腕が付根まで激しく痛んだ。次第に衝撃は震えとなって、肋骨や腰骨までモールス信号みたいに広がった。
 ヴォルフラムの巨大な武器が飛ばされ、くぐもった擬音で地面に刺さった。
「……ひゃっほーぅ」
 気分的には逆転サヨナラ満塁アーチだが、距離からすればセカンドフライだ。いずれにしろ敵はもう丸腰だ、ここで下手《したて》に出て折衷案を探れば、なんとか停戦に持ち込める。
「……おれ的にはもうクタクタで勘弁してって感じなんだけど、もしお前さえよかったら、今日のところは引き分けってことで……うっわ!」
 おれは仰天して飛びすさる。蒼白な顔のヴォルフラムの右手は、バスケットボールでも掴むような形で、わずかに中指だけ外向きにしながら、オレンジの火球を乗せていた。
「ヴォルフラム!」
 ギュンターが叫ぶ。
「陛下はまだ魔術について学ばれていないのです! 自分が負けたからといって、得意の炎術を持ち出すのは」
「ぼくは負けたわけじゃないッ」
「だっ、だから引き分けでいいって、おれ言ったじゃん」
「引き分けもなしだ。どちらかが戦えなくなるまで続ける」
 美しい顔を憎悪に歪ませて、魔族のプリンスは右手を突きだす。
 ギュンターは何か呪文めいたことを叫ぶが、彼等の頭上で小さな爆発が起こっただけだった。常人のおれには想像できない方法で、せめぎあっているらしい。
「グウェンダル! なぜ邪魔をするのです!? ヴォルフをとめないと陛下の身が」
「邪魔をしているのはお前だろう。真偽を見定めるいい機会だ。あれが本物の魔王だというのなら、ヴォルフラムごときに倒されはしないはず」
「しかし陛下はまだ要素との盟約も……」
「魔力は」
 言葉を奪ってグウェンダルは、壁から離れて向き直る。いつもどおりの不機嫌な美貌。
「魔力は魂の資質だ。学ぼうが焦がれようが得られるものではない。あれが真の魔王だというのなら、盟約も知識も追い付かなくても、あらゆる要素が従いたがるはずだろう? その高貴な魂に跪《ひざまず》いてな」
 外野の会話に耳を傾けられたのはここまでだった。そんな余裕はない。おれが本物の魔王のはずが、いやもし万一そうだったとしても、炎のドッジボールに勝てる自信は……。
「炎に属する全ての粒子よ、創主を屠《ほふ》った魔族に従え!」
 その台詞を覚えておくと、後々いいことがあるだろうか。それどころじゃない。おれは駆け出した。逃げろ、逃げちまえ! 反撃のチャンスはきっとある、だから今はこのファイアーボールが届きそうにない所まで、一歩でも遠くへ逃げるんだよ!
「我が意志をよみ、そして従え!」
 つんのめって転んだのは偶然だった。だが大きさを増した火球は、頭を掠《かす》めて壁に当たる。髪が焦げる独特のいやな匂いが、自分の嗅覚を刺激した。
 殺される。こんなものをヒットされたら確実に殺される!
 どうして? なんでおれが? そりゃあENDマーク出るまで付き合うって決めたけど、だからってなんでだまし討ちみたいに、非科学的な炎にやられなきゃなんないの!?
 コンラッドは自分の剣を抜き、グウェンダルに銀色の切っ先を向けた。
「グウェン、障壁《しょうへき》を解け。でなければお前を斬ってでも、ヴォルフラムをとめに行くことになる」
「私を斬ってでも? どこまで本気なんだ、コンラート」
「全て本気だ」
 ヴォルフラムも同じく本気だったらしい。今度は炎の球ではなく、彼の僅かに曲がった中指から、空気の揺らぎが生まれてきた。爪の先に血のような赤が灯り、突然ふくらんだその色が狼ほどの大きさの獣になる。炎のままで。
「なんだよそれっ」
 酷薄《こくはく》な笑みを浮かべるヴォルフラムから、獰猛《どうもう》な獣が放たれた。
 なんだよそれ、だったら相撲と剣での勝利はなんだったの!? 最後に逆転チャレンジありだってんなら、これまでの苦労はどうなるの!?
 自分が必死に走った距離を、獣が三歩でかせぐさまを、おれは突っ立ってただ見ていた。動けなかった。動こうにもどこに逃げても、あの四本の足で追い付かれるだろうから。恐怖というより「そりゃないよ」という思いで、ぼんやり口を開けていた。
 凶器の前肢《ぜんし》が襲いかかる瞬間、おれはふっと首を沈めた。そいつはすれすれのところで獲物を飛び越し、勢い余って止まれずに進む。本来なら壁のある場所へ。
 運悪くそこには回廊《かいろう》があり、小走りで横切る人がいる。おれは首を痛いほどひねって、彼女に危険を伝えようと叫んだ。見たことがある、あの娘《こ》は確か、昨日おれの着替えを持って。
「危ないッ!」
「……ちッ」
 全てが遅かった。おれもギュンターもコンラッドも。
 燃え続ける獣は真っすぐに突っ込み、少女は悲鳴もなく弾き飛ばされた。同時に狼も消える。誤った標的を打ち倒して。
「……これが」
 近くにいた哨兵《しょうへい》が慌てて駆け寄る。右胸の肋骨の一箇所が、折れたみたいに鋭く痛む。息をするのが苦しくなって、鼓動が重低音でがなりたてた。
「これがお前等の勝負なのかッ!?」
 腰とも腹ともつかない身体の奥から、熱い感覚が広がりだした。神経の末端まで走り抜けるそれは、脳の後ろで警報を鳴らす。
「関係ない女の子を巻き添えにする、これが……っ」
 目の前で純白の煙が弾けた。
 生きているのかどうか判らなくなる。
 耳の奥で、誰かが低く囁く。
 やっと……。
 やっと、なに?
 それっきり、意識が。

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只看该作者 18楼 发表于: 2005-08-07
谢谢楼主 拖回去慢慢研究

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只看该作者 19楼 发表于: 2005-08-07
疑问,楼主是如何入手的,日本的网络对这些有版权的东西都管的很严的说
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只看该作者 20楼 发表于: 2005-08-08
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疑问,楼主是如何入手的,日本的网络对这些有版权的东西都管的很严的说

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第7和8章都比较短,所以一起贴了~~



 晴天がにわかにかき曇り、中庭の上空だけに黒雲が広がった。石畳に叩きつけられる息もできない豪雨。辛うじて開いた眼に映ったのは、ヴォルフラムを見据えるユーリだった。
「……陛下?」
 ギュンターがおずおずと声をかけるが、そちらを振り向く素振りもない。
 口調どころか、声まで別人のようだ。
「己れの敗北を受け入れず、規則を無視した暴走行為。果てには罪もない少女を巻き込み、それでも貪欲に勝利を欲する」
「な、なにを役者口調で言っているんだ?」
「それが真の決闘だというのか!? だとしたらそのような輩《やから》を、野放しにしておくわけにはゆかぬ! 血を流すことが目的ではないが、やむをえぬ、おぬしを斬るッ」
「なに!?」
 斬るとか言っておきながら、ユーリの武器は剣ではなかった。
「成敗《せいばい》ッ!」
 ヴォルフラムが使った火獣のように、彼の指先にも術が現われる。叩きつける雨と同じウォーターブルーの、二匹の牙のある蛇だった。

「なんというか、こう、あまり王らしくない術形態だな」
「そんなことより、陛下はいつ水の要素と盟約を結ばれたんです? それに命文の一言も口にせず、粒子を操るのは至難の業。なにひとつお教えしていないのに、どうして陛下はそのようなことを……」
 それぞれ勝手な感想を述べるユーリ派の二人に聞こえないように、グウェンダルは小さく呟いた。
「なるほど、魂は本物、ということか」
 半透明なきらめく蛇の横腹には、うっすらと漢字で『正義』と書かれている。場違いだ。宙をくねった二匹は過たず、獲物の魔族に絡みつく。ヴォルフラムはらしくない悲鳴を上げ、そいつらを振りほどこうと抵抗した。指先では彼の命によって幾度も炎が生まれるのだが、そのたびに豪雨が叩き消す。これは炎の術者よりも水の術者に分がある証拠だ。主人の格と実力によって、具現した要素の勝敗は決まる。
「はなせっ、このっ! いったいどうして、こんなに急に……。貴様、本当は何者だ!?」
「何者だと? 余《よ》の顔を見忘れたか」
 すっかり時代劇モードだ。
「罪もない娘の命を奪ったおぬしの身勝手さ、断じて許すわけにはゆかぬ」
「ぐ……っ」
 いよいよ蛇(正義一号二号)がヴォルフラムを成敗しようと締めつけたとき、兵の一人が嬉しげに叫んだ。
「おーい! 気がついたぞ、命に別状はないようだ」
 少女が男の腕の中で、意識を取り戻して目を開いた。小さくうめいて顔に手をやる。
「……あたし……どうして……」
 ユーリもヴォルフラムもそれを見た。ヴォルフラム自身は弁解する気もなかった。殺すなら殺せ、こんなちょっと外見がいいだけのガキに首をとられるのは屈辱的だったが、跪いて命乞いをするよりは、武人らしく死を迎えるほうがずっと良い。
 だが首にまで絡みついていた水蛇は、急激な蒸発によって姿を消した。力が抜けて、座り込む。爛々《らんらん》とした眼の輝きまでもが常人でないユーリが、ヴォルフラムを指差して言い放った。
「ヴォルフラムとやら、以後よくよく改心いたせ! お上《かみ》にも情けはある」
「な……ナサケ?」
 自称・お上は、派手な飛沫《しぶき》をあげて、泥水の中にぶったおれた。


  8


 誰かが身体を洗ってくれた。誰かが部屋に運んでくれた。誰かがベッドに寝かせてくれた。誰かが毛布をかけてくれた。
 そして誰かが、夢の中で囁いた。
 野球? 野球をやるならキャッチャーをやれ、サッカーだったらえーとゲームメーカー? とにかくチームに指示を出すポジションをやれ。監督だったら最高だ。
 小学生は監督できないよ。
 そうだな、そこが残念なとこだ。よーしユーリ、キャッチャーをやれ。お前がサインをださないと、ゲームはずっと始まらないぞ。
「……おれがサインをださないと……ゲームはずっと……」
「お気がつかれましたか」
 ぼんやりと白い天井が見える。覗き込んでくる超美形の灰色の髪も、紫の瞳が潤《うる》みかけて、泣きそうな微笑で唇を噛んでいる。
「……おれ……死んだんだっけ」
「縁起でもないことをおっしゃらないでください、一時は陛下のお身体を案じて、国中皆で祈りましたのに」
「大袈裟だなぁ」
 ギュンターはとんでもないという感じに肩をすくめた。
「大袈裟ではありません、三日も眠ってらしたのですよ」
「三日も!?」
「そうです。けれど今朝からは通常の睡眠になり、疲労が回復すれば目が覚めるだろうと医師が申しておりました。お身体の方には、何ら異常はございません」
「だろうと思った、いやに腹が減ってるから」
 それにしてもあんな炎の化物に倒されたにしては、目立った傷も火傷《やけど》もない。よっぽど頑丈にできているのか、それとも誰かがタオルを投げてくれたのか。
「本当に、陛下が水の術を使いこなされたときには、私ばかりでなくグウェンもコンラートも仰天いたしました。いつのまに水の要素と盟約を結ばれたのですか? それも具現形態も見事な美しい蛇でした。一体いつ……」
「水の術? 要素、盟約? 何の話だよ何の。ああそうだ、あの女の子は無事!? あの、燃える狼に突っ込まれちゃった彼女」
「あ、ええ、幸い命に別状はありませんでした。もっともヴォルフラムの炎が突っ込む直前に、グウェンダルが彼女を障壁《しょうへき》で覆ったので、実際には軽い波動というか衝撃で弾き飛ばされただけなのです」
 グウェンダルが? ああ見えて結構いい人なのだろうか。
「にしても。そか、あーよーかったぁ、おれ気がちっちぇーからさ、女の子が大火傷したらどうしよう、もしかしておれのせいか、おれの責任問題なのかっ!? って思ったら、かーっと頭に血が昇っちゃって……あれ、おれどうしてやられちゃったんだろ」
「やられ……いいえ、いいえ陛下、陛下は決してヤラレてなど……」
「いーんだよ慰めてくれなくともぉー。もともと勝ち目のない勝負だったじゃん。きっとめちゃめちゃ怖かったんだろうなー、記憶がなくなるくらいだもん」
 おれは筋肉をほぐそうと、首をコキコキ鳴らしながら、コンラッドの聞き慣れた「こうなると思った」を待った。けどその言葉はかけられなかった。近くに彼はいなかったので。
「コンラッドは、どうしたの、仕事?」
「仕事、です。実は国境近くの村で紛争があり、グウェンダルと共に鎮圧に出向いています。陛下のご容体が深刻でないとは判っていましたが、後ろ髪を引かれる想いだったでしょう」
 後ろ髪を引かれるとか馬の骨とか、どこの国にも似たような慣用句があるもんだ。
 開け放たれた扉の向こうから、わざとらしい咳払いが聞こえた。
 悪魔のプリンス、ヴォルフラムが、むっとした顔で立っている。本当は魔族のプリンスなのだが、こっぴどく痛めつけられたであろうおれにとって、彼の形容詞はデビルとかサタンしか思いつかない。地獄とかヘルとかブラッドとかつけて、B級映画のタイトルにしてやりたいほどだ。
 珍しくくすっと小さく笑って、ギュンターが声をひそめて教えてくれた。
「あのあと、ツェリ様からお咎《とが》めを受けたのですよ、ヴォルフラムは」
「へえ、あのお袋さんが子供を叱ることなんてあんのか」
「あの方の怒りをかうくらいなら、私は……」
「余計なことを話すなギュンター!」
 叱られたという三男が、靴音も高らかにベッドに寄ってくる。おれから微妙に視線を外していて、斜め上向きなのが不自然だ。
「それでは後は若いかた同士で」
 意味深長な言葉を残して、年寄りは部屋を去ってしまう。待ってー、二人きりにしないでー、というのが本音だが、おれは俯《うつむ》いて黙り込み、相手の出方をうかがった。
「まだまだだな!」
 ヴォルフラムは、ぶっきらぼうにそう切りだした。
「はあ?」
「少しはやるかとも思ったが、あの程度でみっともなく失神するようでは、お前など魔王としてまだまだだなッ」
 腕組みをして顎を上げたままだ。偉そうだよこいつ。
「今後ぼくに挑むときには、もっと力をつけてから来い! あんなちんけな蛇の一匹二匹では、ぼくの炎術に対抗できはしないからなっ」
「だから蛇ってなに? おまえ母親に叱られて、おれに謝りにきたんじゃねーの!? なのになんだよそのえっらそーな態度! 反省の色がみえねぇじゃん」
「何故ぼくがお前に謝る必要がある」
「だって勝手にルール変えるし、おれが知らない魔法は使うしで……ああ……もう……」
 最終的には負けたのだと思い出す。なにしろクライマックスの部分だけ、きれいさっぱり忘れちまってるのだ。多分、負けたんだろうなー、ギュンターはおれを慰めようと、やられてないなんて言ってくれたけど。
「もういいや、引き分けだよ引き分け。引き分けただけでも上出来だよ」
「引き分けだと!? あれは最後まで戦いを全《まっと》うしたぼくの勝利だ! だが恥じることはないぞ。どちらが勝者かはあらかじめ判っていたことだ。お前ごときに倒されたら、十貴族として申し訳が立たない」
「……」
 もう口答えする元気もなくなって、おれはただただ溜息をついた。ヴォルフラムは機嫌を良くしたのか、敵ながら天晴《あっぱ》れだった場面を講釈《こうしゃく》してくれる。
「しかしぼくの剣を弾き飛ばしたのは中々だった。ああいう打ち込み方は初めてだ。お前の育った国の剣術なのか?」
「どれ? ああ、あの満塁ホーマーか。違うよ、あれは剣道とか武道じゃない。あれはおれがたまたま野球やってて、貰った剣のグリップがバットに似てたから同じように握って、いつもの癖でああ振っちゃっただけのこと」
「グリップとかバットとかは、ユーリの使い慣れた武器の名か」
「ちーがーうーよー。それは棒みたいな野球の道具で、他にグラブとかボールがあって、ピッチャーが投げた球をバッターが打って、成功したらバッターはランナーになって、そのランナーをキャッチャーが殺してェ」
「やはり生死をかけた勝負なんだな」
「殺すってそういう意味じゃねーよーぉ。もっと楽しいことなの、もっと興奮すること」
「わからないな、球を棒で打って何が楽しいんだ?」
「あああー、実際に見てもらわなきゃ野球の面白さはわかんねぇって! ああでもおれ一人じゃやってみせようが……かといってこの国でのベースボール人口は、おれとコンラッドとあの子たちしか……」
「ぼくと話しているときに、コンラートのことなどどうでもいいだろう」
 次兄が話題に上ったせいか、三男はちょっと気分を害した様子だ。
「あいつなら、贔屓《ひいき》の人間どもの村に行っている」
「え? 紛争だかもめごとだかって……」
 国境近くの村の、子供たち。ブランドン、ハウエル、エマ、名前を聞かなかった二人。
「そう、難民に貸した我々の土地だが、この時期は早場の麦が実るからな、周囲の村に狙われやすい。昨年は豊作だっただけに、今年はなおさら危険だろうな」
 血が、急にひいてゆくような気がした。前触れもなく血圧が上がって、頭がぐらついて耳鳴りがする。ベッドに座っているはずなのに、底のない深いところへ落ちてゆく感覚。
「なんだ、気になるのか? そうか、ユーリも半分は人間だったな」
「どれくらい……被害ってどれくらいの規模なんだろ……まさか死人が出たりとか、そんな大変なことじゃないよな……」
「死傷者のない争いなど聞いたこともない……どうしたユーリ、手洗いか?」
「ちがうよッ」
 主に空腹と脱水でふらつく身体を、やっとのことでベッドからひきずりだして、おれは足元に靴を探した。
「行かないと。あいつらがどうなったか、確かめないと」
「行くって、はあ? 国境へか!? そんなにコンラートの顔見に行きたいのか!?」
「子供たちが心配なんだよっ」
 拍子抜けした声になる。
「ああ、難民の心配か」
「うるせーなっ、お前にかんけーないだろッ」
「関係なくないぞ! そんな格好で行くつもりか? きちんと服を着ろ、それに髪も整えろ、寝癖がすごいぞ寝癖がっ。それに時刻をわきまえてるのか、せめて夜が明けるまで待て、それまでに何か飲んで腹に入れろ。ああ、食べすぎても困る、胃の中身をかけられてはたまらないからな」
 そこまでまくしたてるとヴォルフラムは、扉の向こうに声をかけた。最初の少女とは違った女性が、食事と服をと命じられ戻ってゆく。
「よし」
「よ、よしってェ」
 ブロンドの王子様は不遜《ふそん》に言った。
「行きたいのだろう? 乗せてやる」
 あんなに険悪な関係だったのに、ご親切に乗せてくれるとはどういうことだ。もしや故意に落馬させて、今度こそ命を奪おうという魂胆なのか。果たしてこいつの相乗りさせてもらって、いいものか、それとも罠なのか。おれの数秒間の葛藤をよそに、ヴォルフラムはますます偉そうにしていた。
「なにしろ馬にさえ独力では乗れないという、能無し魔王陛下だからなユーリは! ぼくにとっては余分な荷物を積んで馬を走らせるなど雑作のないことだが、お前はそれさえ覚束《おぼつか》ないようだ。歴代の魔王の中で初めてだよ、お前ほどどうしようもないへなちょこ陛下は!」
「へ、へなちょこ言うなーッ」

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只看该作者 21楼 发表于: 2005-08-08
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最初由 滄炎沁夢 发布

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是哟@@
我同事说出版社的主页有时候也能找到一些,不过我都找不到,不知道根本原因是不是日文太烂-.-
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只看该作者 22楼 发表于: 2005-08-08
winny的开发者貌似今年6月被抓了=v=
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只看该作者 23楼 发表于: 2005-08-09
引用
最初由 那塔枷罗 发布


是哟@@
我同事说出版社的主页有时候也能找到一些,不过我都找不到,不知道根本原因是不是日文太烂-.-

跟日文水平没关系吧。。
出版社的主页不太可能有书看的,如果有也只是一些试看的。。


引用
最初由 dssx 发布
winny的开发者貌似今年6月被抓了=v=

嗯,觉得他挺倒霉的。。。
还好winny仍然有很多用户,资源仍然丰富。。我玩winny和share一周半了,拖了几十G的漫画和小说。。。


今天二级报名忙了一天,网页刷了N个小时都不出来,晕死~~~
从没见过这么恐怖的网上报名系统。。。真艰难,跟打仗似的。。哎,半夜再奋战一下,不行干脆放弃了~~

 9


 村は燃えていた。
 未明に十騎の兵を連れ、ギュンターには告げずに城を発《た》った。ヴォルフラムと同乗したのだが、彼の馬捌きはワイルドで初日よりかなり辛い行程となった。とはいえおれもタンデム上級者になりつつあり、荒っぽい騎乗にもどうにか耐えられた。
 従う連中がいやに美形ぞろいだなと思ったら、ヴォルフの私兵だということだった。なるほど、要するに由緒正しい純血魔族の皆さんか。
 視線を感じて見上げると、骨飛族の一人が、一匹かな、ちょっと遅れてついてきていた。どうして視線なんか感じたのだろう、頭蓋骨の目の部分には穴しかないのに。
「兄上が向かわれたのだから、今頃はもう全て治めて、事後の対策にかかっているだろう。特に危険はないと思うが、なにしろお前はへなちょこだからな、目の届かない所には行くなよ」
「……へなちょこゆーな……」
 だが、午後を過ぎておれたちが到着したときには、村は燃えていた。家も畑も。かなりの勢いの火の手は、曇り空さえ朱に染めていた。兵たちは森に飛び火しないようにと走り回り、村人は柵から離れてひとかたまりになっていた。
 女と、子供と、老人だけだ。皆、言葉を失って立ち尽くしている。老婆が一人だけ泣き叫んでいた。
「今頃はもう治まってるって、お前さっき言っただろ」
「妙だな、そんなはずが」
「けどもう目の前に見えてんだから。ああどうしよ、すげー燃えてる、あいつら大丈夫だったかなー」
 数十メートル先の村に向かって、とにかく早く森を抜けようとした、その時だ。
「相変わらず世間知らずだな、三男坊」
 部下しか居ないはずの背後から、聞き覚えのある人物の、面白がるような声がした。
「……アメフト・マッチョ!?」
 三騎だけを従えてそこにいたのは、初日に会った、デンバー・ブロンコス。確か名前は……
「アーダルベルトだっけ」
「おや、記憶力がいいな。あの時はただのバカかと思ったもんだが」
「バカそに見えて悪かったね」
 対応しているのはおれだけで、振り返って見たものは、馬上で凍り付いたように動けない美形ぞろいの兵士たちだった。それどころか、おれの前に乗っているヴォルフラムも、身体を硬くしたままピクリとも動かない。

 アーダルベルトはゆっくりとおれたちに近付き、ヴォルフラムの横顔を眺めながら言った。
「これだからお前は甘いってんだよ。王様を護るのに十騎ばかりでいいのか? しかも純血魔族なんかばかり集めたりするから、魔封《まふう》じの法術に簡単にひっかかる。こういう時は最後の一人に、術を無効化する兵を選ばねーとな」
 というと、今現在、おれを除いた味方全員が、その魔封じだかいう術にかかって身動き取れなくなっているのか!? 信じられない、目的地を目の前にして。スタンドが見えているのにガス欠で止まっちまった車みたいなものだろうか。
「よう、また会ったな新魔王陛下」
「どもス」
 彼が敵なのかはっきりしないので、とりあえず曖昧に挨拶しておく。魔族と敵対してはいるようだが、おれにはどちらかといえば親切だった。初めて会ったときには、村人との間に仲裁に入ってくれたし、言葉を教えてくれもした。
 それに、彼のフルネームはフォングランツ・アーダルベルト。いかにも魔族って響きじゃないか。
「……こいつらが動けないのは、あんたのせい?」
「ああ、まあな。ちょっと修行して覚えた魔封じの法術だよ。お前さんはどうして、こいつの後ろになんか乗ってんだ? 母親と長兄にしか尻尾《しっぽ》を振らねえ三男坊を、いったいどうやって手懐《てなず》けた?」
 手懐けられてるとは思えない。にしても、この男はコンラッドとも知り合いだったし、今の台詞から察するに、ヴォルフラムやグウェンダルとも近しいようだ。なのにどうして敵対してるんだろう。おれは疑問を口にした。
「あんたホントは魔族なんだろ」
 アーダルベルトは眉を上げ、額に皺《しわ》を寄せて短く答えた。
「昔はな」
「じゃ何でこいつやコンラッドと仲悪ィの。何でわざわざ邪魔しに出てくんの」
「嫌いだからさ」
 嫌い?
「オレは魔族が死ぬほど嫌いでね。こいつらのやり方に嫌気がさしてんのさ。だから薄汚ねぇ魔族の手から、お前さんを救ってやろうっていうんじゃねぇか。さ、気の毒な犠牲《いけにえ》の異世界人、早いとここの場から離れようや」
「おれを……救うって……」
「いきなり違う世界に連れてこられて、魔王になれなんて強要されてんだろ? 魔王っていやあ人間の敵だ。この世を堕落させ破滅させる凶悪な存在だぜ。お前みたいな若くて善良な人間を、そんな悪者に仕立て上げようってんだ。なあ、あんまりじゃないか。あまりにひどすぎると思わねーか?」
 この世界に来て初めて、おれが人間だということを肯定してくれた。おれは平凡な高校一年生で、ギュンターやコンラッドやツェリ様が期待する、魔王の魂の持ち主なんかじゃない、ずっとそう言い続けてきたけれど、誰も信じてはくれなかった。
「こいつらには犠牲が必要だったのさ。王の座に祭り上げるためのイケニエがな。それには抵抗も反抗もできないような、何も知らない真っ白な少年がいい。魔族に敵対する人間達に、全ての元凶として憎ませる、そのためだけの存在として、お前を魔王にしようとしてるんだ」
「……おれは」
 アーダルベルトは真横に並び、耳に二重にも三重にも響くように語りかける。
「お前は善良な人間だ。だから魔封じも効果がない。そうだろ?」
「……ああ、おれは人間だよ……魔族じゃないし……魔王でも……」
「そいつの話を聞くなッ!」
 ヴォルフラムの掠《かす》れた叫び。ぎくっとおれの肩が震える。
「あっ、えっ、しゃ、喋れんのか!?」
「そんな奴の話を聞くんじゃないッ! その男は……っ」
 おれの肩だけではなく、腰に回した腕から伝わる、彼の全身の細かい震え。前を向いたままの首筋に、汗の粒がぽつぽつと浮かんでいる。
「その男は、我々を裏切った……っ、お前も、仲間にっ、引き込もうとしてるッ」
「ヴォルフラム、つらいんだったら喋んなくていいって」
「いーんだぜ三男坊!」
 裏切り者と呼ばれたばかりの男が、長い剣をすらりと抜き取って、切っ先を魔族のプリンスの喉元に向けた。
「無理して声を出さなくても。ちょっとばかし魔力が高いと、完璧に術に支配されなくて損だよなぁ。もっと楽に意識を手放せれば、部下達みたいに楽しい気分になれたものを」
 首を捻《ひね》って後ろを見ると、おれたちが連れていた魔族の騎兵は、酔っ払ってふらつくおっさんみたいに視線を宙に彷徨《さまよ》わせていた。
 プライドの高いヴォルフラムのことだから、血管切れそうな状態だろう。
 アーダルベルトは追い打ちをかける。
「見ろよ、お前の大嫌いな人間どもが、魔族の土地を炎に変えてるぜ。ヴォルフラム、お前、いつも言ってたよなあ。人間ごときに何ができる、あんな虫けらみたいな連中が、魔族に刃向かうこと自体間違いだって」
「人間!?」
 おれは馬から身を乗り出した。
 あと一蹴りで森を抜けるのに。木々の隙間には、絶望と憎しみの光景が見えていた。炎の向こうからは、矢らしき影が尾を引いて飛んでくる。剣を合わせる接近戦ではないものの、誰かが誰かを攻撃している。
 母親が、子供を抱えて地面に伏せた。駆け寄った兵士が自分も低い姿勢をとりながら、引き絞った弓で応戦する。
 戦争してる。
 目の前で起こってることが俄《にわか》には信じられなくて、おれは繰り返し呟いていた。
「戦争してる、戦争、ホントに、現実に」
 多分この程度の規模では、紛争とか別の呼び方があるのだろう。けれど、生まれて初めて目にする「現場」は、「戦場」にしか思えなかった。
「……どことどこが、じゃなくて、誰と誰が? 魔族と人間が?」
 森に避難しようと走ってきた老人が、背中を反らせて飛び上がった。そのまま前のめりに倒れる。腰の辺りに矢が突き刺さっていた。死んではいない、離れているのに、目が合ったから。
「なんで射たれてんの、兵隊じゃないのに……どう見たってあの人は軍隊の人じゃないだろうに。あの人は村の住人だろ、村の人達は難民のはずだろ?」
 人間どもが、魔族の土地を炎に変えている。
 でも、あの土地で生活していたのは、人間の子供や女や老人ばかり。
 声の最初が微かに震えた。驚きと恐怖となにかの感情で。
「あんたたち、人間同士で戦ってんのか? 逃げてきた子供たちがひっそり生活してる村を、人間の兵士が襲ってんのか?」
 ヴォルフラムが苦々しげに、アーダルベルトに吐き捨てた。
「どうせ貴様の差金だろうっ」
「オレはちょっと助言してやっただけさ」
 バランスを崩しかけておれがばたつくと、栗毛が軽く身動《みじろ》いだ。赤茶の尾が左右に大きく振れる。裏切り者と呼ばれた男は、惨状《さんじょう》を眺めつつおれに言う。
「信仰する神の教えには背くなよ、ってな。知ってるか、去年は記録的な大豊作で、連中の国は増税したんだ。今年も同じ試算で徴収される、そうなったら食べる分も残らねえ。選択肢は二つだ、飢えるか、調達するか。あいつらはオレに助言を求めた。だから教えてやったのさ。隣の村ほどの近さとはいえ、ここは憎むべき魔族の土地だ。魔族の土地に住み、魔族の土地を耕す者から奪うのなら、神もお怒りにはならないだろう。隣人から奪うという重い罪を、問われることもないだろうと」
「だってそんな、人間だろ、どっちも同じ、人間なんだろ!?」
「違うな、同じ人間、じゃない。この村の奴らは魔族についた人間だ。魔族の側についた者達は、もう同じ仲間とは思われない」
 おれは親指が痛むまで両手を握り、もどかしさに腿に叩きつける。
「わっかーんねーよっ!」
「解らなくてもいい。とにかくオレは、お前を連れ出してやりに来たんだ。お前は魔族じゃなくて人間なんだろ? 異世界から連れてこられただけの被害者で、髪と目が黒いって理由だけで、魔王に仕立て上げられそうな生贄《いけにえ》なんだ。一旦、魔族の側についちまったら、もう二度と仲間とは思われねぇぞ」
 アーダルベルトは、おれに手を貸してくれようというのか、馬の左に飛び降りた。間に馬体をはさむ状態になり、少しだけ彼と距離ができた。ヴォルフラムがこちらを向きもせずに低く囁く。
「行け」
「え?」
「見たところ、こいつらにお前を殺す気はなさそうだ。無理に抵抗して傷でも負われたら面倒だ。今はアーダルベルトに従っておけ」
「ったって、お前とか皆は……」
「構うな」
 おれは言葉を呑み込んだ。おれがこの場を去った後で、残った彼等はどうなるのだろう。
 もう一度ヴォルフラムは短く囁く。
「早く行けユーリ!」
 ゆっくりと反対側に回り込んだアーダルベルトが、おれに片手を差し出した。
「そうだよなあ、ヴォルフラム。ここでこいつを失ったところで、また新しいガキを喚《よ》び寄せりゃいいだけのことだ。魔王候補をみすみす逃がしたってことで、兄貴たちに少々責められはするだろうが、自分さえ無事なら何とでもなる。こいつを護ろうなんて暴れて生命《いのち》を失うより、ずっと賢い選択だ」
 ヴォルフラムは僅かに唇をかみ、おれの腕が離れる瞬間に小さく言った。耳から聞こえたのかどうかはわからない。何かを通じて伝わった。
「……迎えにいく、絶対に」
 瞬《まばた》きをするほんの一秒の間に、おれはいくつもの気持ちと情報を素早く受け入れ、自分のとる行動を導きだした。結果がどうなっても、現在の状況ではベストの答えを。
 どちらを選べば後悔しないのかを。
「手を貸してもらったからって、おれがあんたとタンデムすると思うなよ」
 おれは勢いよく地面に降り立ち、長時間の乗馬で足腰が痛むといわんばかりに屈伸をしてみせた。アーダルベルトの部下の中からいい乗り手を探そうと、後方の騎馬に歩み寄る。
「あんたみたいなガタイのいいマッチョは嫌いなんだ。劣等感刺激されるから。その上、顔でも負けてるから」
「じゃあ、どいつと相乗りしてーんだ。それとも独りで乗れるのか?」
「独りで? とんでもない!」
 最後の「ない!」を発すると同時に、酔っ払った味方の足を思い切り叩いた。兵は目覚めたりしなかったが、そいつの拍車は馬の腹に当たり、葦毛《あしげ》は嘶《いなな》いて走りだす。一頭につられて他の騎馬も駆け出す。たじろいで止まったままのやつも、おれに蹴られてダッシュする。
 たちまち周囲は蹄の音で満たされ、十数頭の馬群は、敵味方乱れて森の出口へと突っ走った。ヴォルフラムの栗毛も巻き込まれていて、アーダルベルトとおれだけがとり残された。
「……なんでこんなことをする?」
「ヴォルフラムはちゃんと最後の一人を選んでたよ。その一人がおれだってことに、あんたが気付かなかっただけなんじゃないの」
 ああ、惜しむらくはその最後の一人となったおれに、身を守る武器を与えなかったこと。
「ユーリ、オレはお前のためを思って、魔族のもとから連れ出してやろうと言ってるんだぜ。それをわざわざぶっ潰すなんて、どうしてこんなことをするんだ、ええ?」
「おれは最後まで付き合うって決めたんだ。この、悪い夢みたいなアトラクションにね。だけど、付き合う相手はアンタじゃない。あんたはおれのチームに要らないんだよ」
 おれの構想には入っていないので、戦力外通告を申し渡す。
「おいおい、そりゃないだろ」
 アーダルベルトが、巨大な両手剣をぶら下げて足を進める。
「お前が怖がらないようにって、せっかく気ィ遣ってやったのによ。だったら最初っから腕の一本でも圧《へ》し折って、脅して拉致すりゃよかったよ」
「み、右投げだから右腕は勘弁して下さい」
「別に左腕でもかまわんよ。だが、一番手っ取り早いのは……」
 どうやらおれの人選は、この男に関しては間違っていなかったようだ。
「魔王を消しちまうことだけどなッ」
「ひぃッ!」
 我ながら情けない悲鳴だとは思う。だがこんなデカくて長い剣を振り回されてたのでは、剣道経験のない身としては堪らない。しかも彼の武器は恐らく練習用ではない。恐らくっていうか確実に実戦用だ。
「おっ、おれを魔族の皆さんから連れ出してくれようとしたんだろ!? だったら今からだって遅くはないじゃないかっ。なにも急に心変わりして殺さなくたって、歩いてだってこの国は抜けられるんだしっ」
「お前は魔族に肩入れすると決めたんだろ。だったらオレにとっちゃ敵ってわけだ。魔族に力ある魔王を持たせたら、ますます厄介な存在になる!」
「だってアンタさっきからおれに言ってたじゃん! おれは普通の人間で、たまたま髪と目が黒いから魔王に祭り上げられてるだけだって。あっちの世界から喚《よ》ばれた被害者で、普通の人間だって言ってたのに!」
 刃《やいば》の向きを変える音が、やけに大きく重く響く。
「眞王がそんな戯《たわむ》れをするものか」
「じゃ、じゃ、じゃ、じゃあ嘘だったのか!? おれが普通の人間だってのは、アンタの口から出任せだったのか!?」
「お前を懐柔《かいじゅう》できないもんかと、そう言い続けてきたんだが……」
 アーダルベルトは照準をあわせ、必要なだけ間合いを詰めた。
「お前は本物だよ、残念ながら」
 背中が乾燥した幹に当たる。後ろに逃げ場がないってことだ。一回二回は避けられても、その先がどうにもならないだろう。ヴォルフラムとの決闘とは状況が違う。殺傷能力も高そうだし、使い手のレベルにも格段の差が。
 振りかざされた剣の影が額に落ちる。おれは観念して目を瞑《つぶ》った。
 速球が風を切るみたいな空気の振動と、枯枝が折れるような乾いた音。しゃがみこんだおれの足や腕に、ばらばらと破片が降ってくる。膝にかさつくボール状の物が転がりこみ、そっと片目を開けてみた。
「こっ……」
 ずっとついてきていた骨飛族が、アーダルベルトの巨大な剣で「壊れて」いた。脊髄にもろにクリティカルヒットを食らったのか、ほとんど全壊して散らばっている。おれの膝に頭蓋骨が乗っていて、薄茶の翼は痙攣《けいれん》していた。
 おれを、庇《かば》って?
「コッヒー、なんでこんな……」
「骨飛族のそんな行動は初めて見たな。主を護ろうと命懸けってことか。ちッ、変なもん斬っちまったぜ」
「変なもんってどういうことだ!?」
 心の中でコッヒーに詫びながら、彼の一部(多分、腿の辺り)を握り締めて立ち上がった。もちろん、骨で剣を凌《しの》げるとは思えない。しかし、目を閉じて成仏するのを待つだけでは、彼の死を無駄にすることになる。
「テメーなんかにコッヒーの何が解る!?」
 いや、おれも深くは解ってないけど。
 もはや本性を隠そうともせず、アーダルベルトは悪役めいた笑みを浮かべる。
「意志も持たない種族に同情たぁ、今度の魔王は庶民派だな」
「うるせー! おれは庶民派が売りだ、消費税引き下げが公約なんだよっ」
 おれが骨……武器を構えると同時に、3%ではきかないくらいの心強い馬群が迫ってきた。白馬の王子さまならぬ、ウェラー卿とフォンビーレフェルト卿の軍隊だった。


 運が悪い、多勢に無勢ではどうにもならない、しかも馬もない状況では、お前を人質にとって逃げることさえままならない。アーダルベルトは言い散らして、援軍が来る前に掻き消えた。コンラッドは部下の数人に追跡を命じ、行き先を突き止めるようにと指示をした。決して必要以上に近付かず、チャンスと思っても手をだすな。こちらの生命《いのち》が危険だから。
「おそらく、まかれるだろうが」
 それより前におれたちは外人俳優顔負けの抱擁をかわしており、何故かヴォルフラムに砂を投げつけられた。
「よかった、ユーリ。今度ばかりはもう駄目かと」
「おれも、よかったよー。映画で男同士がガシッて抱きあってる気持ちがやっと理解できた」
 こういう感じだったわけだ。互いの背をバンバン叩きながら、コンラッドが引きつった声で言った。
「ところで、俺の背中に当たってる硬いものは何ですか」
「ああこれ? ホネ」
「骨。なぁんだそうですか、骨ですか。で、陛下はそれを何に使うつもりだったんです?」
「えーと、棍棒がわりに」
 彼はがばっと身体を離した。眉間にしわが寄っている。
「まさか、アーダルベルト相手に一戦やらかすつもりだったんじゃ……」
「だってみすみす殺されるのヤだもん」
「あーもうっ、陛下、ヴォルフラムの時とは話が違うんですよ!? あいつとヴォルフじゃ格が違うってのに」
「悪かったなッ、格が違って!」
 栗毛から降りた三男が、不愉快そうに下草を蹴った。魔封じとやらの効果は切れたのだろうが、顔色がいいとはお世辞にもいえない。
「大丈夫なのか、ヴォルフラム」
「ふん、お前に心配される筋合いはない」
「だったら心配しないけどさー」
「こいつは自業自得です。勝手に陛下をこんな所まで」
 若い方の兄に咎められても、悪怖《わるび》れた様子など微塵《みじん》もない。おれは自分が頼んだことにして、さっさと話題を切り替えた。
「それより、なんでこんなに早く来てくれたんだ」
「俺としては遅すぎるくらいだよ。村を越えた国境近くで交戦中だったんだけど、俺達の隊に従ってた骨飛族が、仲間の窮地を聞きつけて。言ったでしょう、彼等には独特の意思伝達能力があって、少々離れた場所からでも、精神だけで会話ができるんです。で、その場をグウェンに任せて、ここまで駆け戻る途中でヴォルフラム達と……」
「そうだ! どうしよう、コッヒーだよ!」
 おれは木の根元に散らばる残骸を掻き集め、中央に頭蓋骨をそーっと置いた。
「可哀相にコッヒー……おれなんかのために自分の命を……ホントにごめんな、きみにだって妻も子もあったろうにさぁ」
 とはいえ性別、依然として不明。せめて簡単な墓をつくり、命日と彼岸には花でも手向《たむ》けようと、悪いけど彼自身の大腿骨《だいたいこつ》で、草の間を掘り始める。
「ああちょっと陛下、埋めちゃ駄目だ」
「なにいってんだよぅ、コッヒーを野晒《のざら》しにはしておけないよー」
「責任もって回収させますから。埋めちゃったらもう二度と飛べないじゃないですか」
「は?」
「だから、骨飛族はきちんと組み立て直せば、元どおり飛べるようになりますから」
「し、死んでないの?」
「彼等の生態に関しては、実に不思議な部分が多くて」
「ほんとにー? ほんとにそんなプラモみたいな仕組みなのー? じゃあ変なとこに変なホネ組み入れちゃって、新しい生物にしないでくれよー?」
「大丈夫、専門の技術者がいるんです」
 プロのモデラーか。けど良かった。生きててくれて何よりだ。
 ようやく森を抜けて村に戻ると、逃げ遅れた敵兵の対処にあたるコンラッドに、くれぐれも注意するようにと言い含められた。
「終息に近付いてきてはいますが、まだ残党の抗戦もある。いいですか、決して俺の目の届かないところには行かないでください。流れ矢に当たって命を落とす者もいるんだから」
「な、流れ矢かぁ」
 そういえばさっき、流れ矢っぽいものに射られた老人はどうなったのだろう。コンラッドの視界から外れないように気をつけながら、おれは負傷者が集められている一角に向かった。
 火の粉を避けて張られた布は、体育祭の救護テントを思わせる。だが屋根の下はそんな閑《のど》かな雰囲気ではなく、二十人以上の怪我人が、草の上に直接、横たわっていた。おれが茫然と突っ立っている間にも、次々と人が運ばれてくる。
 魔族も人間も村人もない。叫んだり呻いたり泣いたりしている。
 青白い肌の女の子が、一人で忙しく動き回っていた。癒しの手の一族、とギュンターが呼んでいた。彼女は、つまり、衛生兵なのだろうか。この国では男女の別なく戦地に赴《おもむ》くらしい。そういう点は、妙に進歩的だ。
「何かおれに手伝えることがあったら……」
 女の子は顔を上げ、おれを見て仰天した。外見はまだヴォルフラムくらいだが、きっとおれより年上だろう。
「いいえ、陛下! とんでもない、ここはわたし一人で大丈夫です」
「でもどんどん運ばれてくるよ」
「あのっ、あの、申し訳ありません、陛下にこんな見苦しいところを。どうぞ、陛下、お戻りになって、兵達の指揮をお願いいたします」
 おれは首を横に振り、彼女の領分に足を踏み入れた。
「見苦しいことなんて全然ないよ……みんな怪我して苦しんでるんだから、それにおれは軍隊を指揮できるタイプじゃないし」
 新たに一人、運ばれてきたことで、衛生兵の気持ちも変わったようだ。救急キットらしき箱を手渡して、入り口近くの男を指差した。
「本当に申し訳ございませんが、それではあちらの軽傷の患者から、この液で消毒をお願いできますか。必ず手袋をなさってください。布と鋏《はさみ》はこちらにございますので。あの、陛下、負傷兵の治療のご経験は……」
「ないけど、多分、気を失ったりはしないと思う」
 死球傷とかスライディング傷とかスパイク傷とかを見てきているので。女性兵は、安心したという表情で、重傷患者を診《み》てやりに行った。おれは太股を斬られた男に、大胆に消毒液をふりかけた。スパイクで切れた傷なんてものじゃない、肉が開いてピンク色だ。
「運が悪いな、鎧のないとこやられちゃうなんて。けど安心しろ、傷は浅いぞ。その証拠に骨も筋肉も見えてない」
 手が震えた。
「そんな、陛下、もったいない……」
「もったいないだって? 薬品をケチっちゃいけないよ。ねえちょっと、これ傷薬ー?」
 少女がおれに頷いた。キットの中の黄色いジェルを、大きめのガーゼに塗りたくり、保健体育だったかボーイスカウトだったかで習った通りに、幅広い包帯で腿を覆う。男はしきりにもったいながっていた。次ッ、と自分に気合いを入れて、裂傷や火傷の具合を調べる。
 比較的元気な者ばかりだったが、部活中の擦り傷や打ち身くらいしか負ったことがないおれにとっては、それでもここは「野戦病院」だった。何人かの軽傷患者を処置した後、うつぶせの男の番になった。
 背中を斜めに斬られているが、防刃《ぼうじん》服のおかげで、出血の割には深くない。辻斬りに襲われた町人みたいだ。汚れた衿《えり》に明るい茶色の髪がかかっている。革紐の先についた銀のコインが首の後ろに回ってきていた。幸運のネックレスなのか、どこかの国の貨幣なのか。深く考えもせずに、ぴかぴかの一円玉を掴もうとした。
「触るなッ」
「えっ、あっすんません! 別に取ろうとしたわけじゃなくてっ、ただちょっとキレイだったから……」
「オレに触るなっ! どうせ殺すんだろ!? 魔族が人間を生かしておくわけがねえ」
「殺……殺したりしないって……」
 男は身体を起こそうとして、痛みに呻いて顔をしかめた。とても聞き取れない悪態を、おれに向かって繰り返す。こちらの姿は見えていない。
「あんた、人間か」
「当然だ、畜生、お前等魔族と一緒にすんな! くそッ、殺すんなら早くやれ」
「殺さないよっ、なんだよあんたいい大人のくせして、傷の消毒がそんなに恐いのか」
「消毒だァ? 今さら善人ぶった嘘吐くんじゃねーや、魔族が人間を助けるわけがねえ! テメーら魔族は人間を殺す、だからオレ達も魔族をぶっ殺すのさ」
 おれは構わず傷に液体を流しかけた。
「殺しゃしないようるせーなぁもう! その証拠にあの村に住んでたのは人間だったじゃないか。魔族が人間を殺すってんなら、あの人たちはどうして生きてんだよ! せっかく静かに生活してたのを、壊しにきたのはあんた達だろっ」
 そうだ、こいつらは人間の村を襲い、人間に対して剣を向けた。矢を放った。
 同じ人間なのに。
 男はおれを見ようと首をそらし、おれは男を見下ろして立っていた。
「あそこは壊してもいいんだよ! あの村の連中は魔族に魂を売った、あいつらからは奪ってもかまわねーんだ、あんな村ぁ焼けちまって当然なんだ! 神はオレ達をお許しになる、魔族を懲らしめるために力をお貸し下さるのさ!」
 痛みと出血のせいなのか、ヒステリックに掠れた笑い声。
「神は人間をお選びになる!」
「……それ、どんな神様だよ」
 額に包帯を巻いた兵士が、隣からゆらりと起き上がる。
「……陛下に……なんということを……」
 待てという間もなかった。彼は剣を掴み、叫ぶ人間の首めがけて振り下ろす。
「だっ……」
「やめなさい!」
 剣は鋭く空を切り、やわらかい地面に食い込んだ。男の首はまだ胴についている。運よく武器が折れていたからだ。衛生兵の少女は男の顎を持ち上げ、濡れた布を素早く鼻に当てた。負傷した人間から力が抜けて、ぐったりと草の上に顔を押しつける。
「怪我人が興奮状態にあるときは、悪いけど眠ってもらうことにしてるんです」
 よくあるもめ事の類なのか、取り乱すこともなく彼女は微笑む。
「御気分を害されたことでしょう、申し訳ありませんが、彼等はいつも懐疑的《かいぎてき》なのです。そこのあなた、あなたも行動を慎みなさい。わたしの職場に運ばれてきたからには、全員が平等にわたしの患者です。傷つけあうことは許しません! あら、陛下」
 彼女は、圧倒されているおれを覗き込み、喉元に揺れる石を見つけた。
「それはコンラート閣下からの捧げ物ですか?」
「え、ああうん」
「そうですか」
 何を思い出したのか小さく頷いて、次の負傷者にとりかかる。
「よくお似合いです、とてもよく」


 兵に指示を出しているコンラッドのもとへ、おれはふらつく足取りで寄っていった。所々焦げた服の兵士が来て、井戸について報告している。
「わかった、無理に近付くな。土はなるべく広範囲に、掘った分は全て柵の中だ」
 部下が略礼で走り去る。腕組みをしたヴォルフラムは、さして深刻そうな様子でもない。
「兄上が戻られたら、こんな村、地の中に飲み込ませてもらえばいいんだ。そうすれば火も消える、森に被害は及ばない」
「では村人の家や土地はどうなる。せっかく拓《ひら》いた田畑は?」
「ふん、奴等だって同じ人間に火を放たれたのだから、仕方がないと諦めるだろう」
 同じ人間に。
 おれはわけもなく脱力して、その場にへなへなとしゃがみこんだ。
「陛下」
 コンラッドが膝を折り、背中にそっと手を置いた。
「どうしてこんなことするんだろうな……食糧が欲しいからってこんなこと。おれはヴォルフラムやグウェンダルみたいに、人間を軽蔑してる魔族の誰かが、嫌いだからってこの村を襲ったのかと思ったんだ」
 ヴォルフラムは心外だといわんばかりに鼻を鳴らした。
「どうしてぼくらがそんな無駄なことをしなければならない? ここは昔から魔族の土地だ。燃えればそれだけ自然が失われる。それに森にでも火が届いてみろ、一年二年で復旧できるものじゃないんだぞ」
 黒煙とともに燃え上がり、やがて無残に崩れ落ちる家々。ほんの数日前に訪れたときには、緑と黄金に輝いていたのに、今は炎に舐められる農地。森に逃げ込んだ数頭の家畜。
「どうして、人間同士でこんなこと……」
 コンラッドは降りかかる火の粉を遮り、おれの肩を掴んで引っ張った。
「あんたたち魔族が人間と敵対するのは、良くないことだけど解らないでもないさ。つまり、えーと、うまくいえないけど、シャチとイルカが仲が悪いとかそういう……けどそれはお互いが違うから生まれる不仲だろ、それはなんとなく解る気がするよ。なのに人間同士で争うってどういうこと?」
 さっきの男のヒステリックな笑い声が、頭の中を駆け回った。
「それじゃイルカ同士が傷つけ合うみたいなもんじゃねえ!? そんな無意味で残酷なことやってて、神様に怒られないってどういうことだよ!?」
 魔族と人間の中間にいる彼は、感情を読み取れないほど低く言う。
「では」
 兵士たちのあげる疲労と絶望の声、焼けた麦が灰になって舞い上がる。
 落ちて草の上に積もったそれは、蹄《ひづめ》に散らされて再び踊る。
 何度も繰り返す。いずれ地に返るときまで。
「陛下のいらした地球では、人間同士が争うことはなかったとでも?」
「……それは……」
 炎に照らされた馬上の人影が近付く。三騎ばかり従えた彼は大きな布の塊を引きずっていて、おれたちの前で放り出し、村人の一団に目をやった。
「これ……っ」
 ボロ布に見えたのは人だった。兵士の服装の肩と右足に矢が刺さり、額からの流血で目まで真っ赤だ。もう一つの荷物は農民風の男で、青白い顔で低く呟いていた。怪我らしい怪我は見つからないが、両腕と足が奇妙に曲がっている。
 骨が。
 おれは痛みを想像してしまい、こみあげる胃液の一部を、やっとのことで飲み下した。
「あちらは直に片付く。といっても大半は国境を越えて逃走したが」
 こんな大変な事態になっても、グウェンダルの表情はろくに変わらない。いつもどおりに不機嫌で秀麗で、服についた他人の血以外には、戦闘の痕跡をとどめていない。末弟たちが来ていたことに対してか、微かに眉を上げた後、武人としては認めている方の弟と状況について話し始めた。
「この男がアーダルベルトが扇動したと吐いた。どうりで手慣れているわけだ。兵士くずれがかなり参加している。その中に火の術者がいたらしい。炎の勢いはそのせいだ」
「一向に衰える気配がないよ。骨飛族の伝達が昼頃だから、術者が着くまではまだかなりある、それまで持ち堪《こた》えられるかどうか。森だけはなんとしても守らないと」
「ではそいつらは加勢ではなく、単に見物に来ただけか。それとも……」
 見物人扱いされているのが自分だと悟り、おれは唇を噛んでうつむいた。優雅に降り立ったグウェンダルは、興奮気味の馬を炎から離すよう部下に命じ、背筋を伸ばしてこちらを見る。
「あの時のように見事な水の魔術で、この村の猛火を鎮めてくださるのか?」
「どういう……」
 あの時の水の魔術とはなんだ? 不安が胸の奥で燻《くすぶ》っている。ギュンターも水に関することを言っていた。要素と盟約で、具現形態がどうだとか。
 おれの記憶にない時間の中で、責任をとれないことが起こってるのか?
「兄上、どうやらこいつは覚えていないようなのです」
 ヴォルフラムが素っ気なく、然《さ》したることでもないように言った。
「あれは無意識下だからこそできた、幸運と呼ぶしかない奇跡。つまりユーリは現在、剣も魔術も使いこなせないばかりか、馬にも乗れない素人ということで」
「奇跡、おれが? どんなすごい奇跡を、おれが起こしたって?」
 コンラッドが、済まなそうな視線を向けている。あの眼差しには心当たりがある、生徒指導室に付き合ってくれた担任の目だ。あんたがそんな顔することはないんだよ、監督殴って部活クビになるのはおれなんだから。おれは自分のやったことを、これっぽっちも悔やんでないんだから。呼び出された母親は監督と学年主任に、殴った事実を詫びてから笑って訊いた。それで監督さんは、なにをやっちゃったんですか。この子を怒らせて殴られるような、ちょっとまずい出来事があったんでしょ。ゆーちゃんたら昔からそうなんですけど、子供のくせにポリシーみたいな変なもの持ってて、それに反することに出くわすと、頭に血が昇っちゃうみたいなんですよ。まあ我を忘れた状態になっても、正義の二文字だけは守るんですけど。
 教師間では、この親にしてこの子ありという結論が出されたらしい。
 母の言葉を信じるなら、小市民的正義感は、貫き通せているはずだ。
 とはいえ今、目の前で、再現しようにも思い出せないのでは……。
「どうせ役に立たないのなら、せめて邪魔にだけはならないでくれ」
 長男は、本気で期待してはいなかったようだ。
 肩を寄せ合う村人達から、年嵩《としかさ》の女が一人引っ張ってこられる。頬にほつれた金髪と涙の筋をつけた女は、魔族のなかでも位が高く美しい人を前に怯えていた。兵が彼女に剣を持たせ、うずくまる敵の近くに連れてゆく。グウェンダルが言った。
「そいつらがお前の村を焼いた。殺すなり晒すなり好きにするがいい」
「なんだって!?」
 またお前か、という顔で睨まれる。だが放ってはおけない。いつもどおりの、おれ。
 違う世界に飛ばされてまで、社会で習ったとおりの行動。
 けど、それが自分だ。
 おれは拳をかたくして、女と負傷兵の間に立つ。魔族の権力者に独り挑む。
「だめだろ、こいつはつまり、紛争の捕虜だろっ!? 捕虜の扱いには決まりがあんだろ。さっき治療してた女の子も、怪我人は平等だって言ってたぞ」
「コンラート、このうるさいのをどうにかしろ」
「おれはどうにもされないよッ」
 さしもの彼《グウェンダル》も少しは苛ついたのか、額に手を当てた。
「それは一般兵の話だろう、こいつらは首謀者だ」
「たとえ首謀者だって同じだ、勝手に死刑とかできるわけないじゃん! こいつにもちゃんと弁護士つけて、裁判開いて有罪か決めて……」
 武器を持ち上げられもしない女にも、おれは必死の説得を試みる。
「おばさんも、こんな非常識な連中の口車に乗っちゃ駄目だ。いくら相手が偉い人だって、従っていいことと悪いことがある。捕虜を勝手に殺しちゃいけないってことくらい、義務教育で習っただろ。中学の歴史か公民かなんかで、私刑《リンチ》になるから禁止だって」
「あたしは……そんな……」
「その女は教育など受けていない。貴族に楯突《たてつ》くと厄介だから、人間どもは民が余計な知恵をつけることを嫌う。教育が義務だなど以《もっ》ての外だ」
「義務教育がないィー!?」
 剣と魔法の世界では、人としての権利はどうなっているのだ。
 説得の効果とはいえないが、女はためらって立ち尽くすばかりで、今のところ私刑は避けられそうだ。おれは胸を撫で下ろし、できることがないかと周囲を見回す。例えば町火消しの纏《まとい》を持つとか、初心にかえってバケツリレーとか。だがどこを見ても水がない。皆、土を掘ってはかけている。
「どうして水かけて消さないの?」
 何の気もなくコンラッドに尋ねる。
「もう井戸に近付けないからですよ。それに術者の発した炎は、少々の水ではとても消えるものじゃない。命じられた目標を焼き尽くすから普通の火事より広がるのは遅いけど、よほど大量にないかぎり、ただの水では太刀打《たちう》ちできない。グウェンダルは地術の練達者だから、土を盛り上げて遮断しようとも考えましたが、地下への影響が大きすぎて、森が犠牲になりかねない……水を操れる術師を待つしか、俺たちにできることはないんです」
 水を操る。それを自分がやったのだろうか。あの記憶のない、真っ白な時間に。
 腰に手を当てて立っていたヴォルフラムが、わくわくした声で兄に訊いた。
「我々の土地に対するこの襲撃は、宣戦布告の理由になりますか」
「……まあ、理由の一端にはな」
 せんせんふこく?
 十五歳の日常生活では滅多に耳にしない言葉を聞いて、おれは四字熟語らしき響きを反芻《はんすう》した。せんせんふこく、センセンフコク、宣戦布告。
 宣戦布告?
「宣戦布告だって!? こっちから戦争しかけようってのか!? 冗談じゃない、どうかしてる」
 無視された。
「……もう少し多角的に物事を考えろヴォルフラム。正規軍の兵士が一人として加わっていないんだ。この襲撃を布告の主たる理由にすれば、奴等は村をひとつ切り捨てるだけで逃れられる。必要なのは確実性だ」
「では、奴等がこの国の辺境を思うままにするまで、指をくわえて見ていろというのですか」
「おまえら、聞けーッ!!」
 横目だけでおれをとらえ、真面目に取り合おうとする様子はない。
 血液が猛スピードで脳に集中しかけている。こんなときに血管を切ったら元も子もない。冷静に言葉を選ぼうとしながらも、おれの口端はひきつって、声の最後も震えていた。
「専守防衛って知ってるか!? とにかく守るだけって意味だよ! 自分から戦ったりは絶対しないって意味だよ! 現代日本は平和主義なんだ、戦争放棄してるんだ、憲法にもちゃんと書いてあるぞ!? 日本人に生まれて日本で育った、おれももちろん戦争反対だ、反対どころか大反対だッ」
 コンラッドを指差し、語尾が上がった調子で言う。

「地球だって人間同士で争いがあるって、さっきおれにそう言ったよな!? あーあるさ、全然ないってわけじゃない。けどそういう時でも必ず、誰かが止めようと努力してたね! 世界の人口の大半は、平和になるよう願ってたね!」
 半ば自棄《やけ》気味の叫びになる。ヴォルフラムとどちらが癇癪《かんしゃく》持ちなのか判りゃしない。
「おまえらの話の中身はどーよ!? もっと確実に戦争できるようになるまで、わざと黙って見てるだとー!?」
「……わめくな」
 グウェンダルは、頭痛を抑えるみたいに顔を顰《しか》めた。だが、おれのあだ名はトルコ行進曲。
「話し合え、話し合いをしろってんだっ! あんたの国の国民が、うちの農地を燃やしました。どうしてくれます、どう保障してくれます? うちとしては絶対に戦争は避けたい、以後こういうことのないように、国内できちんと対処してくれますー? って、解決めざして話し合えってんだッ」
「わめくな異世界人!」
「いーや喚《わめ》くね、わめかせてもらうね! おれは二十歳までは日本人なの、魔王の魂もってても、成人するまでは日本国籍があんの。平和に関しちゃ日本のが、この国より優秀だと思ってるからさ、やめろって言われても言い続けるね! 戦争反対、絶対反対、一生反対、死んでも反対っ」
「では一度死ぬか!?」
「やなこった!」
 やった、と思った。クールで、おれのことなど庭の小便小僧くらいにしか扱おうとしなかったグウェンダルを、こちらの議論に巻き込んだのだ。もうこうなったら、おれからは退《ひ》かない。魔王みたいな容貌で凄まれようとも。
「王になる気もないお前が、我が国のことに口を出すな! 私には眞魔国を護る責任があり、国益を考える義務がある。お前はニッポンだかいう場所のご大層な倫理と生温《なまぬる》い手段で、自分の育った国を守るがいい。だが我々には我々の、魔族には魔族のやり方がある!」
「だったらおれが変えてやるよッ。魔族のやり方だっつーのを、おれが一から変えてやる!」
 この空は汚れていない、この大地は毒されていない、この森は乱されていない、この世界は美しい。だけどこの世界は、何かがおかしい。
「おまえら綺麗でかっこいーけど、性格超悪で問題あり! 人間差別とか危険な風習とか特権階級意識とか戦争好きとか。だからってもう片方の人間側が、平和主義かっていうととんでもない! 同じ人間同士なのに、魔族の土地に住んでるからって襲っていいんだって! そんなバカな話ってある!? 戦争するのに神様が力を貸してくれるって、そんな物騒な信仰ってあり!?」
「陛下」
 陛下なんて呼ぶのは、三兄弟ではコンラッドだけだ。彼の、虚《きょ》を突かれたようなトパーズ・アイ。
「あっちも絶対間違ってるけど、だからっておれたちが乗せられちゃ駄目だろ。自分たちだけでも正しいことをしようよ、戦争するのは間違ってるよ」
 ごめんなコンラッド、マーチはクライマックスで止まれない。酸欠でアタマがくらくらしてきた。おれたちって誰たち? おれは自分をどの集団に入れてるんだ? おれは人間だったんじゃなかったっけ。
「王様が戦争なんかダメだって言えば、国民はそれに従うんだろ?」
「陛下っ」
 低く低く、おれは言った、次には怒鳴った。
「……おれが魔王になってやる……」
「ユーリ!?」
「眞魔国国王になってやらぁッ」
 おれがサインをださないと、ゲームはずっと始まらない。
 背後で柵に火が移った。小さな爆発を思わせる音に、女の悲鳴が被さった。
「なに……」
 振り返ろうとしたおれは、身体を曲げて咳き込むことになった。右の肋《あばら》への一撃が、肺の空気を詰まらせる。
「動くな!」
 羽交い締めにされて無理遣り顎を掴まれた。喉と胸に重い金属が当たり、耳のすぐ横に誰かの呼吸がある。
 うずくまっていた首謀者が、女の手から武器を奪ったのだ。血で赤くなった目をギラつかせ、興奮と苦痛で荒い息を吐く。肩と足には矢が刺さったままだ。
「誰も動くなよ、動いたらこいつの喉を掻《か》っ切る」
 目玉をぎりぎりまで横に向けて、男の顔を見ようとした。
「お前も無駄な抵抗はすんな!」
「わかりました……」
 超弱気。
「それとも偉大なる魔王陛下様に、こんな口はきけねぇのかな。俺達みたいな下っ端は」
 誰かが舌打ちした。だれだ。
 おれを引きずって移動しながら、男は半ば笑いを含んだ声音で言った。
「あんたが本当に魔王だってんなら、こんなに簡単でいいのかよ。俺みたいな一介の兵卒が」
「……っ……」
「どっかに拉致しようとしてんのに。お前等、呪文の欠片《かけら》でも吐いてみろ、俺も死ぬかもしれねぇが、こいつも確実に命を落とす! どっちが先か試そうなんて気ィ起こすなよ、こっちは二十年も兵隊だったんだ」
 首に熱に似た痛みが走る。恐らく、皮膚が浅く切れたのだろう。
 男は魔族達から慎重に離れ、馬と水と食糧を要求する。
「死にかけたふりして聞いてりゃあ、目の前のガキが魔王だっていうじゃねーか。しかも剣も術もてんで駄目らしい、そんな魔王がホントにいんのか?」
「……しょーが……ねーじゃん……」
 切っ先が触れる喉も痛むが、殴られた肋骨はもっと痛い。息をするたびに涙がでる。
「まあどっちにしろ、この世にふたつと生まれない双黒だ。たとえ王様じゃなくっても、連れてきゃ楽にひと財産稼げる。お前さん自分じゃ知ってんのかい、髪や瞳の黒いもんを手に入れれば不老不死の力を得るって、いくらでも金を積む連中がいるのさ」
 聞いた。三日か、六日前に。自分自身の生死もコントロールできないのに、他人の妙薬になるなんて、そんな不条理な人生があるか。おれはぎゅっと目をつぶった。
 さっき怒鳴っちゃってごめんなさい、謝るから今は助けてください。一生懸命、眼で訴えたが、味方は誰一人として手を出せず、遠巻きに囲んで息を飲むばかりだ。
 馬が牽《ひ》かれ、鞍袋《くらぶくろ》に少量の水が入れられる。
 もしかしてこの一瞬が最初で最後のチャンスなのか? 二人同時には絶対に乗れない、まして人質に刃を突きつけたままでは。だとしたら、今しかチャンスはないのか?
「乗れッ」
 男はおれの背中に剣を回した。背後から貫けるよう構えている。一人では乗れないと打ち明けるわけにもいかず、恐る恐る鐙《あぶみ》に足を掛けた。
 右足が鞍を越えようとした瞬間だった。
 小さい黒い影が素早く近付き、男の足に突き立った矢を引き抜く。
 男が蛙みたいな悲鳴をあげる。刃が茶色い皮を傷つけ、臆病な葦毛が高く嘶《いなな》く。前肢《ぜんし》を持ち上げて「荷物」を振り落とし、恐怖から逃れようと走りだす。
「やば……っ」
 宙に身体が浮いたと思ったら、地面とは違う硬さの上に落ちた。さっきの肋骨がまた疼き、酸素が吸えずに苦しんだ。
「……っえ……ッ」
 胸を掴んだ指に、暖かいものが降りかかる。
 血だ。
 逆光でコンラッドの背中は影にしか見えない。彼の足元にも影の塊があった。
 男が二つに折れて倒れていた。新しく赤い血を流して。
「……死んだの?」
「さあな」
 身体の下から声がして、慌てて草の上に尻をずらす。グウェンダルが、服についた泥と灰を払っていた。なんでこの男が、おれの下敷きに。疑問を口にする余裕はない。
 恐らく葦毛に弾き飛ばされたのだろう、小さな恩人の惨めな姿が目に入ったからだ。
 もうそこには炎が迫ってきていた。俯《うつぶ》せに横たわる少年は、熱さにもかかわらずぴくりとも動かない。
「……おい……」
 突っ立てた金髪、子供達のなかでは体格がいいほう。
「ブランドン」
「ユーリ、危険だから俺が」
 コンラッドの腕を振り切って、おれはよろよろと炎に近付いた。子供が、人間が燃えてしまう、誰かが放った悪意の炎のせいで、消せない卑怯な炎のせいで。
「ブランドン!」
 脇から大きな火が飛ぶのを、コンラッドがどうにか薙ぎ払った。
「ブランドンっ!?」
 仰向けた少年を膝に乗せる。薄く目を開き、唇を動かした。生きてる!
「……へいか……」
「陛下なんて呼ばなくていいんだよ」
「……でも、王さまに……なるんで……しょ……」
「ブランドン」
 この村を守ってやる、お前たちを守ってやる、そう約束して、約束する。
 ぽたりと、子供の頬になにかが落ちた。
「約束する」
「なげ、る……の……も、おしえて……くれ、るんで……しょ?」
「約束する!」
 叫びとシンクロするように、耳を劈《つんざ》く突然の雷鳴。
 三半規管の奥の方で、甘く優しく嬉しげな囁き。
 我等の最後のひとしずくまで……
 雨が地面を叩きだす。
 滅多にないような豪雨だった。

我的网上小窝“夢のパラダイス”
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一个关于动漫游戏、日语翻译、生活点滴的blog,欢迎大家常来坐坐~~~
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只看该作者 24楼 发表于: 2005-08-09
二级报名哟,今天早上看一眼,还是刷不出来,汗死了....

我的目标是下星期的报名,已经决定请假在家里点刷新了,不过还真担心请假也刷不出来-.-
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只看该作者 25楼 发表于: 2005-08-10
前天是服务器有问题才很难报上~~
昨天中午我就一次性报成功了~~开心啊~~~
我想如果服务器没出问题的话,三四级也不是很难报的~~


今天贴第一卷的最后一章啦~~呼,终于完了~~
谢谢各位的支持哦~~
另外其余的卷我改贴在blog里了~~
http://coffeejp.com/blog/blog.php?uid_38630.html
这个blog里我专贴一些日文流行小说,每天不定量更新,大家常去逛逛哟~~~
而且blog里没乱码了~~大家可以重新收藏一下第一卷~~~

 10


「うううー、信じられねぇ、どうしてこーいうことになるかなあ」
 広間の扉の外側で大理石の廊下を睨みながら、おれは吐き気を堪えていた。
「仕方ないだろ、絶対魔王になってやるって自分で宣言しちゃったんだから」
 コンラッドは貴族らしからぬにやにや笑いで、天まで届くかという柱に寄り掛かっている。
「だからって戴冠式……歴史の教科書の〈図8〉でしか、見たこともないような戴冠式……」
「ノミネートはきみ一人、プレゼンターは母上」
「アカデミー賞っぽく言うな」
 さっきまではギュンターも一緒だったのだが、例によっておれを褒めちぎり、式の進行のために走り去った。彼が褒めたのは学ランのことと、もうひとつ、あの村の件だった。
「しかしあれだけの水術を使われて、まったく覚えていらっしゃらないとは……」
 ピンポイントとしか評せない豪雨は、村の鎮火と同時に嘘みたいにあがった。王都から術師の一団が到着した時には、木と麦のくすぶる煙が昇っているだけだった。
 自分自身はブランドンのことまでしか覚えていない。その先はぷっつりと真っ白だ。国土を救ったのだと大袈裟に誉められても、総てに平凡な高一には、自分の手柄だと容易には信じられない。
「私の申し上げましたとおり、魔力は魂の資質なのです。陛下は魔王の御魂をもたれるお方、盟約などでお手を煩《わずら》わさずとも、四大要素も喜んで従いましょう」
 ギュンターは一人勝手に納得して、我が事のように吹聴《ふいちょう》して回ったようだ。コンラッドはもう少し客観的だ。
「俺は王都に来る途中の、休憩した場所が怪しいと思う。あの時きみと俺は水を飲んだだろ。俺には魔力がないから判らないけど、どうもあれが何かのきっかけに思えてならない」
「どうでもいいよ、そんなこと」
 だって自分では覚えてもいられない奇跡だもん。
 廊下の遠い向こうから、揺れる金髪が歩いてくる。青の強い紺の正装が素晴らしく似合う、魔族のプリンス・ヴォルフラムだ。男で美しいってのはこいつのことだよギュンター、溜息と一緒におれは呟く。
「なんだその質素ななりは」
「……はあ?」
 陛下のために開発されたデザインだけあって、もともと着てらしたこの黒のお召物が最もお似合いです、そういう意味のことを言われた直後だったのに。
「肩章も装飾もまったくないじゃないか。これから魔王になろうという者が、そんなみじめで貧乏くさい格好でいいと思っているのか!?」
 おれの顔を見ないまま、あちらへこちらへと視線が動く。いつもなら白磁のような滑らかな頬に、気のせいか微かに朱がさしている。
「財のかけらもないような姿で、兄上やぼくに恥をかかせるな!」
 言い返そうと口を開く前に、ヴォルフラムはおれの胸を掴み、輝く金色の飾りを留めた。
「おい……」
「これはぼくが幼少の頃に、ビーレフェルトの叔父上にいただいたものだ。特に謂《いわ》れのあるものではないが、戦勲《せんくん》どころか戦場に出たこともない奴には、こんなものこそ似合いだろう。なにしろユーリは馬にさえ乗れない、史上最高のへなちょこ陛下だからな」
「へなちょこ言うなーっ」
「よし、まあまあだ」
 不自然な早口でそれだけ言うと、ヴォルフラムは小走りに立ち去った。左胸につけられた贈り物は、両翼を広げた金の鳥だ。コンラッドは得意げに弟の背中を見送る。
「どうやら陛下はヴォルフラムに気に入られちゃったようですね」
「えええええーっ!? あの高慢ちきナニサマ殿下にぃ!?」
 その話題から逃れようと広間の扉を細く開き、中を窺って再び気分が悪くなる。この国の各地方から本日のために集まってきた貴族諸侯の方々、更に各種族を代表する、ちょっとヒト型とは称しがたい方々。仲良しになった骨飛族とその親戚の骨地族、米国のビルの上に居るガーゴイル風、灰色の豹に似た四本足の人、アブラゼミの羽根と音を持つ手のひらサイズのプチマッチョ(恐らく妖精)、床を濡らしてデカデカと横たわる巨大なマグロ。
「ま……鮪《まぐろ》ですか」
 あれがみんな国民なんだから、慣れなくてはいけないと言い聞かせる。人間は外見じゃない、いや、魔族は外見じゃない。あまりの緊張で所信表明演説を忘れかけた。
 魔王の野望、眞魔国日本化計画だ。
「えーと、わたくしが第二十七代魔王に就任しました暁《あかつき》には、平和主義と国民主権への移行を最終目的とし……おぇぇっ……コンラッド、もうおれ吐きそう……しかも緊張で……なんか、腹も痛ぇ……もいっぺんトイレ、トイレどこだっけ」
「またですか?」
「マタじゃなくて腹だよハラ」
「そんな時間はございません、陛下!」
 白くてタイトなチャイナ服風の教育係が、我が事のような心配顔で走ってくる。
「じきに始まりますからね。よろしいですか陛下、ご説明いたしましたとおりに、中央を進まれて壇《だん》に上がられましたら、ツェツィーリエ上王陛下から冠を戴《いただ》き……もちろん儀式を執《と》り行わなかったからといって、国民の陛下への忠誠が揺るぐわけではありませんが、やはり形式にはそれなりの効果が……」
「だぁーもう、だからちゃんとやるって言ってんじゃん」
「それを聞いて安心いたしました。よくぞご決心くださいました。陛下のこの頼もしいお姿を見られるだけでも……」
 感極まって「爺」モードに入ってるギュンターの横を、無表情な男が通り過ぎる。そのまま扉に手を掛けるグウェンダルにおれは慌てた。
「ちょっと待て、おれより先にあんたが入っちゃってもいいの?」
 容貌のみならず風格や、多分、素質の面でも最も魔王に適任だろうという長兄が、相変わらず不機嫌そうな唇に、作り笑いを浮かべてくれた。だーいサービース。
「上王陛下に冠をお渡しする光栄な役回りを仰せつかったものでね」
「なんだそうか。おれはまた式をぶち壊してくれるのかと思っちゃったよ。だってあんたは、おれが王様になるの大反対だもんな」
「反対? 私が?」
 背筋の凍るような笑みを見せて、一歩戻っておれの顎に指をかける。ああ絶対的な身長差。けどこれはバスケでもバレーでもない、残念ながら野球でもないけど、背の高さは捕手にも王にも関係ないはず。
「とんでもない、反対などするものか。良い王になられることを心より願うね」
「良いって……」
「素直で、従順で、おとなしい王陛下にだ」
「それは貴方が陛下を、思うままにしようという企《たくら》みですかっ!?」
 おれのこととなると過保護なママみたいになっちゃうギュンターの後ろから、コンラッドがのんびりと関係ないことを言った。そういえば、という感じで。
「そういえばグウェン、アニシナが来てたぞ」
 クールが売りだった彼が、途端に苦虫をかみつぶしたようになった。もっともおれは生まれてこのかた、苦虫ってのを噛んだことはないんだけど。小さく舌打ちして扉の向こうに消えてしまう。驚いた、グウェンダルにもウィークポイントがあったんだ。
「さ、陛下、よろしいですか? 緊張してらっしゃいます? 深呼吸して、吸ってー吐いて」
「自分がやってどうすんだよ」
 おれはギュンターとコンラッドを従えて、教えられたとおりに広間の中央を進んだ。真っ黒い花びらが敷き詰められている。縁起でもない。石の階段をゆくと壇上には、輝くばかりの金の巻き毛と、艶めく素材の深紅のドレスで、ツェツィーリエ様が待ち受けていた。
「お、お美しいですツェリ様」
 満面の笑み。
「ありがと、へいか。でもこんな時まであたくしの機嫌を取らなくてもいいのよ。今日の主役は、あなたなんですもの」
 おれたちはちょうど、ライブ会場のアーティストみたいな位置に立っていた。ステージ正面には人工の小さな滝があり、両手を広げたくらいの幅の中央に、ソフトボールサイズの穴が空いている。水は静かに脇を落ちて、細い通路を下ってゆく。
「では陛下、滝の中央に右手を差し入れて、眞王の御意思を聞いてらして」
「は? だって眞王って、死んでるんでしょ?」
「ええ。でもあの穴は眞王廟《しんおうびょう》に通じていて、魔王になることを許された者だけが、あそこに指を入れることができるのよ。そして眞王が新しい王と認めれば、差し入れた手をそっと握ってくださるの」
「ええッ」死んでるはずの人が!?
 ツェリ様はおれの耳に唇を寄せ、フリだけよ、と囁いた。
「あたくしのときも指を入れることはできたけど、誰も握り返してなんかくれなかったわ。入れたらもったいをつけてちょっと待ってから、ゆっくりと出した手を高く上げるの。いかにも眞王の承認を得たというように。ね、陛下、難しいことはなにもないでしょう?」
 背後からギュンターがせっついてくる。
「陛下、お早く」
「っていったってェ」
 おれはイタリアの観光名所、真実の口みたいなものの前に立ち、右手を宙に浮かせたまま、サーサーと流れる小滝の音を聞く。
「嘘ついてたら噛まれるなんてこたないよな」
「まさか。こんなに硬い石でできているのですよ。急に動くはずがありません」
 そうだよねー。怖《お》ず怖《お》ずと暗い穴に右手を近付けると、人差し指と中指が一緒に入った。予想どおり中はひんやりとしていて、湿った空気がまとわりついた。思い切って手首まで入れてしまう。
「あー良かった、やってみればなんてことない儀式だよね。あとはこれで勿体ぶって腕を挙げりゃいいん……」
 あれ?
 指先が何かに突き当たった。奥の壁、かな。
「陛下?」
 ギュンターが心配そうに覗き込む。
「あれ……っうゎ、わぁッ、なんか、なんかがッ」
 冷たい何かがおれの指を掴む。
「つっ、つ掴まれたッ、うゎ、やっ、コンラッドっ、なんかに掴まれたよッ!?」
「掴まれた!?」
 そいつは恐ろしく強い力で、おれの右手を引っ張った。待てよオイ、引っ張ろうったってこれは人工の滝なんだから、流れ落ちる水の向こうは壁だろ! 壁に激突させてやっつけようってのか!? それ以前にこの引っ張ってる力は何者の……。
「どぅゎっぷ」
 コーラス部員みたいな悲鳴とともに、顔から水の中に突っ込んだ。おれの服の背中や左腕を、ギュンターが必死で捉《とら》えようとする。コンラッドがおれの名前を呼んでベルトを掴む。けれどおれたちの間には水の壁があって、撓《たわ》んだ音しか届かない。
 水の壁はあるのに、あるはずの石の壁はない。引き込まれたおれは酸素を求めて喘ぎ……。喘ぎながら頭のどこかで勘付いていた。この世界に来るときも公衆洋式水洗トイレだったのだ。往復チケットをお求めの場合、お帰りも同じ交通手段でということだ。けど今回は、水がキレイなだけまし。ちょっとだけランクアップして、ビジネスクラスでってとこかー!?


 あとはもう、勝手知ったるスターツアーズ。


 や……や……や……。
 なんだろ、相撲の休場のしるし? ヤばっか連呼されたって、ヤリイカかヤンキースかヤンバルクイナかわからない。ヤンバルクイナ、とても懐かしい。
 耳元で『暴れん坊将軍のテーマ』が鳴り響き、近鉄のチャンスなのかとびっくりして目が覚めた。何のことはない自分の青い携帯が、タイマーセットで鳴っている。
「渋谷っ」
「うわびっくりしたッ」
 渋谷のヤだったんだな。肩を揺さ振られておれは跳ね起き、名前を呼んでいたのが中二中三とクラスが一緒の眼鏡くんだと気が付いた。誰だっけ、ああ、健、村田健。
 プールで水を飲んだ時みたいに、鼻の奥がつんと染みる。濡れた布はごわついて硬く重く、じっとりと肌を冷やして不快だった。ゆらぎかける視界をどうにかしようと、両目を細めて周囲を見た。薄暗い公園の女子トイレ、灰色の壁、水色のドア、背中にはこの場に不釣り合いなブランドものの洋式便器、関係ないけどペーパーホルダー。覗き込んでくる村田健と、二、三歩離れて制服警官。
「村田健……逃げたんじゃなかったのか」
「助けてくれようとした人を残して、逃げるわけにはいかないよ」
 警官が、大丈夫かと訊いてきた。被害届けを出すかとか、相手の名前は知ってるかとか。
 おれはぼんやりと思った。
 ナイターが始まっちゃう。
 それから、やわらかい照明の中庭で、誰かとしたナイトゲームを思い出した。野球のヤの字さえ知らないような、子供との約束を思い出した。夢のほとんどを思い出した。
「村田……なんかおれ、すげー夢みちゃったよ」
「どんな?」
 おれは黙って首を振った。長くて、とても話しきれない。
「あ、そう。じゃあ渋谷、ちょっと訊きたいんだけど……」
 立ち上がろうとした拍子に、服の下で肌に冷たい石が触れる。それから学ランの胸元で、金の翼がきらりと訴える。おれは金色の両翼を、左手でぎゅっと握り締めた。
 夢じゃ、ない?
 ギュンター、ヴォルフラム、グウェンダル、ツェリ、ブランドン……コンラッド。
「……それ本当に、夢だったのか?」
「え?」
 村田健は、曖昧な笑みで手を差し出す。
「だってお前、ズボンのベルト切れてるし……いや、こういうことは個人の趣味の問題だからどうこう言いたくないけど……」
 ふと我が身を見下ろすと、千切れたベルトと飛んだボタン、フルオープンの社会の窓。そこからのぞく、魔族の皆様御用達のセクシー下着……。
「うひゃ」
 しまった、もしかしてあれは、夢じゃなくて……。



 どうやらまだ。
 ゲームセットじゃないらしい。



 あとがき

 ごきげんですか、喬林《たかばやし》です。
 私は、ごきげんどころかドッキドキです。
 ついに奇跡《きせき》の文庫デビューですよ。新刊平積みコーナーをウロついては、ため息ばっかついてたこの私が。賞と名のつくものなど何一つ獲《と》ったことがないにもかかわらず、ファンタジー(|超《ちょう》苦手)で、一人称《いちにんしょう》(激苦手)で、主人公以外はほとんど美形(泣くほど苦手)という小説で。かなりのメイクミラクルです。そりゃあドキドキもしますって。
 この本は、ごく普通《ふつう》の高校生がちょっとしたきっかけで異世界に流されちゃうという、早い話がどこにでもあるようなファンタジーです。ただし、ギャグ。
 たまたま雑談の最中に「そういえばこういう話って多いですよねー。しかも主人公は必ず伝説の勇者とか英雄《えいゆう》で、世界を救って帰ってくるんですよねー。もし主人公がピーッだったり、それで異世界でピーッしたりピーッされたりしちゃったらどうでしょうねっ。あ、Hな話じゃありませんよ」なんてことを喋《しゃべ》ってたら、同席してたT先生とA先生、GEG(ゲグ、じゃなくて、グレートエディターごとちん)に、妙《みょう》に受けがよかったんですね。
 それじゃまた、って家に帰ってきてみたら、途中《とちゅう》の東上線でもうすっかり、主人公のキャラクターが出来上がっていた、と。雑談だったのに。他にネタがいくつもあったのに。今度こそシリアスもの作家になるぞって、心に決めて行ったのに……。
 そういう経緯《けいい》でいざ始めてみると、なにぶん不慣れなファンタジー、名前一つとっても難しいんですよ。私としてはファンタジック(?)で大仰《おおぎょう》な名前は避《さ》けたいんだけど、だからといって剣《けん》と魔法《まほう》の世界で「ハーイ、ジョン!」ってわけにもいかないじゃないですか。いや、ジョンはジョンで素晴《すば》らしい名前だと思うよ。ジョン・マルコビッチもジョン・キューザックもジョン万次郎も最高ですよ。けどファンタジーだからなぁ、もうちょっと女の子が感情移入しやすいネーミングを考えないと……と悩《なや》みに悩んでのんだくれた結果、こういうことに。
 いろいろと考えて書き上げたにもかかわらず、現代日本では存在しないような造語があったり、いささか封建《ほうけん》的、なのに妙に平等な部分もあったり。改めて自分で読み直してみると、変な部分が多すぎです。その上、完結してるとも言いがたい。しかしそこはそれ、ギャグですから! コメディーと呼んでもらうのもおこがましい、ドタバタ小説ですから! 広い心で読み流して下さい。目指したのはサム・ライミ監督《かんとく》の「キャプテン・スーパーマーケット」!
 なーんだ、ギャグにしといて助かったよー。
 とはいえ挿絵《さしえ》を担当してくれている松本テマリさんは、こんなオバカな奴等《やつら》じゃなくて、きっともっと心|震《ふる》えるような美しいキャラクターを描きたかったに違《ちが》いありません。すんません松本さん、ギャグ絵なんかさせてしまって。けれどあなたの表紙に魅《み》せられて(女は海)この本を手に取った方がたくさんいると思います。その方々がみんな、お部屋《へや》まで連れてってくれたらいいなぁ。それからGEG(だから、グレートエディター……)、電話口でいつも寝呆《ねぼ》けててすんません。最初の五分は、ほとんど話が掴《つか》めない……。
 そして「大変なことが!」って連絡するたびに、どういう事態になってるか言いあててくれた朝香さん、いや、先生とお呼びするべきですね。朝香先生、これでやっと私も同じリーグに一軍登録できましたっ。まだまだゲーム差|二桁《ふたけた》って感じで、先輩《せんぱい》の背中も見えやしませんが、敗戦処理エースとか消化試合|三冠王《さんかんおう》とかを狙《ねら》いつつ、全速力で追い掛《か》けるよ!
 もっとぶっちぎれた「あとがき」になるかと予想してたら、意外とおとなしくまとまっちまいました。あーんな小説の後記が、こーんな地味でいいんかな。あとがきチェックされてるお嬢《じょう》さんは、これ見て棚《たな》に戻《もど》したりしちゃわないでしょうか……。けどもしちょっとでも気に入って(もしくは気になって)、買ってくれて読んでくれてたらありがとう。ほんとに心から、ありがとう。閉じたとき何か少しでも胸に残ったら、それを是非《ぜひ》、私に聞かせてください。

 二十一世紀の「喬林 知」を創《つく》るために、あなたの言葉が必要なんです。

 喬林 知

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