日経ビジネス オンライン上的报道
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http://news22.2ch.net/test/read.cgi/moeplus/1189607624/中国清華大学の「日本アニメ研」が愛される理由─日本のアニメ・漫画に心を奪われる中国の若者たち
2010年、そしてさらに未来を担う若者の変化の理由を知りたい。そう考えた私は、さっそく中国の大学の「日本動漫(動=アニメ、漫=マンガ)」サークルに行ってみることにした。
清華大学の日本動漫サークルは、正式名称「次世代文化と娯楽協会」。1999年に発足し、最初は10人足らずから活動を始めたが、今ではなんと、600人以上いるという。これは中国の大学サークルとしても大きい方だ。
このサークルは最初はゲーム好きの学部生が作ったという。「次世代」という名称は、当時のプレイステーションやドリームキャストなどの「次世代ゲーム機」に由来するらしい。現在の活動内容は大学内の学生全てを対象とした「漫画本の貸し出し、アニメ鑑賞会、ゲーム大会、創作を通した同人誌の発行」などだ。同人誌も大学内で漫画を公募し、優秀な作品を載せているという。
北京大学にも「元火」という名の日本動漫研が、そしてマルクスレーニン主義思想教育の砦のような中国人民大学にさえ、やはり「臨界」という名の動漫研がある。私が知らない間に、中国の大学はとんでもないことになっていたようだ…。
さて、清華大学の日本動漫研だ。
部室は紫荊(ズーシン)という名前の男子学生宿舎の中にある。中国の大学はたいてい学生宿舎が完備していて、生活の重要な一部になっている。
通された部室には本棚がいくつもあり、どの棚にも規則正しくギッシリと日本漫画の本が積み上げられていた。聞いてみると「全部で4000冊くらいかな」とのこと。何冊か手にしてみたが、ほとんどの本に奥付がない。ということは、海賊版ということだろう。
これは、彼らが小さい頃から読んだ古い本を持ち寄ったものらしい。すごい手垢が付いていたり、表紙がボロボロになっているものが多い。当時は日本の漫画を読もうとすれば、台湾から入ってきた海賊版がほとんどだったのだという。セリフの文字は大陸の簡体字。ということは、台湾海賊版の繁体字の部分に修整を加えたのだろう。中国がWTOに加盟した2001年前後から海賊版の取り締まりが厳しくなったせいか、新しめの本にはちゃんと奥付があり、日本の出版社名や作者名も明記してあった。価格も10倍くらい高い。
私の取材に応じてくれたのは、大学院博士課程3年で公共管理を専攻している于智為(25歳)くん、ナノテクセンターで修士課程を目指して実験を進めている張玉イン(ying)くん(21歳)、大学院博士課程2年で宇宙工学を専攻している黄静波(24歳)くん。いずれ劣らぬ理科系のエリート学生たちだ。
話し始めて、私はいきなり驚かされた。彼らは日本語を専攻しているわけでもないのに、全員が非常に流暢な日本語を話す。「日本の動漫を見て、そのコンテンツをもっと深く理解したくなり、第2外国語として日本語を履修したんです」とのこと。東京の町中でも耳にするような「ッつうか――」という若者言葉を頻繁に使うあたりからも、それが事実だと分かる。日本語の授業ではこういう言葉は教えない。
言葉を覚えてしまうほどに、日本動漫に心を奪われたのはなぜなのだろう。
「あのう、こ、恋とか……愛とか、そういうのって、誰の心の中にもあると思うんですが、でも中国の漫画は、そういうことはあまり語ってはいけないから……。でも日本の漫画はありのままの気持ちを正直に描いているので、ああ、こういうことを正直に描いていいんだなぁと思って、すごく惹き付けられて……」
と、于智為君は恥ずかしそうに口ごもった。
彼は少し浅黒い顔をした、温厚な雰囲気のスポーツ刈りの青年だ。小学校2年生の頃から、日本の漫画「ドラえもん」や「聖闘士星矢」などを読み始め、友達から借りたり、街角にある雑誌売り場(報刊亭)で立ち読みしたりしていたという。
中学校3年生の時にアニメ「スラムダンク」が大陸に上陸し、日本動漫ブームに火をつけたが、その頃は彼自身はまだハマるところまでは行っていなかった。転機は高3の時。彼はテレビで「名探偵コナン」を見るのが楽しみだったが、この番組、105話でプツンと放映が終わってしまった。
「そうなると、その続きが見たくてたまらなくなりました。そんな時に、105話以降の話が載ってるビデオCD(海賊版)を売ってるという情報をキャッチしたんです」。すっ飛んでその店に買いに行ったところ、そこには「名探偵コナン」だけじゃなく、すさまじい種類の日本製アニメが売られていた。抱えきれないほどのVCDを買って帰った彼は、それからすっかり日本動漫の虜になってしまったのだという。
彼の言葉にもあるが、日本の漫画に初接触した時には、今までになかった感覚を覚えたそうだ。中国の漫画は動物が主人公であったり、セリフが多く説教的で、完全に子供向け。でも日本の漫画は違う。日常生活における心の葛藤とそれを乗り越えていく勇気が、押し付けがましくない形で描いてあり、すなおに受け入れることができるのだという。
宇宙工学が専門の黄静波君も同意見だ。「それまでは漫画なんてとバカにしていたんだけど、小学校2年生の時に友達の家でたまたま『聖闘士星矢』第1巻を読んじゃって。中国の漫画は子供のために描いてあるので、ありきたりで魅力がないのに、日本の漫画はまるで映画を見ているようだった」。
小学校時代から「聖闘士星矢」や「ドラゴンボール」、そして「王家の紋章」などを読みまくったというのが、ナノテクの張玉イン君。色白で切れ長の目。尖った頬骨を茶色がかった髪の毛がウェーブしながら覆っている。そういえば何となく「王家」という言葉に似合った雰囲気もある。でも本格的に日本の動漫ファンになったのは、大学入学後。部活やネットを通して、強く惹かれていった。
張玉イン君は、日本の動漫に対して独特の視点を持っていた。
「日本っていう国は、アメリカに比べて版権の規制が緩いじゃないですか。つまり、アメコミは中国に入り込みにくく、日本は入りやすかった。これは否定できないと思いますよ。僕たちは海賊版しか見ていませんから」
どういうことだろう?
「日本の動漫は海賊版の力で中国を席巻してしまい、結果的に中国に深く浸透してしまった。中国は経済発展したといっても、貧乏な子もいます。正規版では買えなくても、海賊版なら買えた。あの時海賊版があったからこそ、多くの子供たちが日本の動漫という文化を知って、好きになって、今はその大きな市場ができあがった。そう思うんですよ」
ちょっとあきれるほどの彼らの「日本動漫」への賛歌を聞いて、逆に私はすこし心配になってきた。何といっても中国の将来を担うエリート学生が集まる大学だ。学内で彼らが、日本びいきとして非難されていることはないのだろうか。
動漫研が、大学内でどういう位置付けにあるのかを知るために、サークルとまったく関係のない清華大学の学生も数人取材してみた。「日本動漫研のサークル活動に参加している人たちは、特殊だと思いますか?」という私の質問に返ってきた答えは、「特殊?! 何でですか?!」だった。質問した私は逆に問い詰められた。
「何で彼らが特殊なんですか? 政治性を持っているわけでなし、時々アニメを大きなスクリーンで無料で見せてくれたり、日本の新しいアニメを紹介してくれたりするから、助かってますよ」
ひとりの学生が勢いよく私の質問に抗議するような口調で答えると、周りの学生たちも「そうだ、そうだ」と口にしたり、首を縦に振って彼の発言を応援し始めた。
「僕たちだって日本動漫は大好きです。でも別のサークルがあったり研究があったりするから、彼等のサークル活動に参加する時間がないだけのことです。彼等の行事は、よく大学の掲示板にも貼ってあり、興味のある学生は好きなように適宜参加したりしてますから、ある意味では全学の活動の中の1つなんじゃないんですか?」
「私が最近見ているアニメに『NARUTO』がありますが、これだって、彼らが教えてくれたんですよ。また、私の友達は、そのサークルのメンバーではありませんが、漫画を描くのが好きなので、漫画を公募していたから応募したと言ってました。彼等は、私たち大学全員のものと言っても過言ではありません」
清華大学の学生全員に聞けたわけではもちろんない。しかし、話を聞けた学生たちはみな、日本動漫は小さい頃から見ており、動漫研サークルを少しも特殊な目で見ていない。普通のことだし、自分も時間があれば、と受け止めていた。日本動漫研は大学の中で市民権を得ているのは確かに思える。私はその筋の情報に詳しくないのだが、いわゆる「オタク」という、特殊なグループとして位置付けられてもいないようだ。これはもしかしたら中国では(日本製の)アニメ・漫画好きは、母国の日本よりもずっと「普通」の存在、ということなのか?
調べてみると、この清華大学のサークル、そして先に触れた北京大学の「元火」、中国人民大学の「臨界」といった日本動漫サークルは、いずれも各大学における学生投票によるサークル評価においてトップテンに入る。中には第3位に入ったところさえある。というわけで、これは局所的な傾向でもないように思える。
若者たちは程度の差こそあれ、日本動漫が好きなのだ。だから誰はばかることもなく、堂々と意思表示をする。あの中国に日本動漫を対象とした動漫研があり、周囲がそれを評価している。そこには、冒頭に述べた私の違和感を解くカギ、中国の若者の実態を解明する手がかりがありそうだと、実感させられた。
こうして私は、知識もなければ興味もなかった「アニメ・漫画」の世界に、何十人もの中国の若者たちを通して、どっぷりとひたっていくことになるのだった。
ああ、まさか66歳にして私が「セーラームーン」のアニメを見たり、「スラムダンク」を読破する日が来ようとは! :D