ハーレムアニメ
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ハーレムアニメとは、1990年代以降のアニメで増えてきた、主人公として一人の男性キャラクターを置き、その周囲に彼に対して好感等を抱く数多くの女性キャラクターが対置されているスタイルのアニメを指す。言葉自体は、「アニメ」に、後宮の意味から転じて一人の男性が多くの女性に取り囲まれる状況を指す言葉となっている「ハーレム」を足して生み出されたものである。もともとは、1980年代頃の漫画から流行したジャンルであるラブコメの一種であるが、中心人物となる男女の人数比が極端であるためにこのような呼称が使われる。
定義
ハーレムアニメとは、厳密に定義すると以下の要件のいくつかを満たすアニメを指す。
1 男性キャラクター(以下「主人公」)に3人以上の女性キャラクター(以下「女キャラ」)が対置されている。
2 女キャラ達は主人公に対して特別な感情を抱いているか、すぐに抱くようになる。ここで「特別な感情」としたものは、はっきりとした恋愛感情から、異性であるとの強い意識や、妹としての過剰な親愛の情(お兄ちゃん♥等)に至るまで様々である。
3 女キャラ達は主人公と極めて近い距離に配置されている。
(例:同居、同じ集合住宅や寮などに住む、同じ学校に通う、etc.)
4 主人公は女性を惹きつける魅力等は持っていない普通の人物である。多くの場合は優柔不断で、かつその裏返しとして女性に非常に優しい人物として描かれる。ただし、何らかの隠された長所を持っていたり、何か重大な局面において驚異的な力を見せる(「やるときにはやる」)人物であるとされる場合もまた多い。
5 主人公とこれらのキャラクター達との関係は物語の最後までほとんど進展しない。これは、特定の女キャラと関係を進展させるとハーレムが崩れてしまうからである。
これらの要件のうち1.~3.は必須である。これらを満たさない場合は、単なる女性キャラクターが多いアニメか男女比のバランスの悪いアニメであって、ハーレムアニメと呼べるものではない。しかしながら、ハーレムアニメという呼称は、その呼称を用いる者によっては、数多くの女性キャラクターが出てくれば何でもこのように呼ぶ向きの者もいないわけではない。そしてこの場合は女性キャラクターばかり多くて中身がない、というように、ほぼネガティブな意味合いで使われる傾向がある。
しかしながら、ハーレムアニメが増加しているとは言っても、1.~5.を全て満たすような典型的なものは決して多いわけではない。特に5.を満たすアニメは、男女関係が内容の大きな部分を占めるこの種のアニメにおいて、その内容すら破綻した女性キャラクター展覧会のような作品になってしまうため、余程割り切らなければ制作することさえ困難だからである。
経緯
ハーレムアニメとして最初に登場したアニメは『天地無用!』といわれている。このアニメは、姉御肌、お嬢様、ロリ、天然ボケ、マッドサイエンティスト等々、様々なタイプの女性キャラクターを配置し、主人公に絡ませることでドタバタ系のラブコメを展開させて好評を博した。それまでも三角関係を用いたラブコメは存在したが、大量の女性キャラクターを登場させ、対する男性キャラクターをほぼ主人公のみに絞ってそれを行ったのは『天地無用!』が最初の例であり、それゆえにハーレムアニメというスタイルを確立した記念碑的作品となった。
ハーレムアニメは、個々の女性キャラクターの個性を極端に際立たせることによって、作品全体のみならず、それぞれのキャラクターに対するファンを獲得することができるため、購買者であるファンの側のキャラ萌えの風潮とともに隆盛することとなった。この点、いわゆるギャルゲーや、その一形態としての成人向けゲームの一部が流行した1990年代後半から2000年代初めにかけての動静と軌を一にしている。なお、この傾向が少年漫画のラブコメに還流して生まれたのが、ラブコメの王道パターンやお約束を軸に多くの女性キャラクターを配した『ラブひな』のような作品である。
ハーレムアニメは『シスター·プリンセス』において一つの極致に到達したと言える。原作が雑誌の企画記事という、漫画でも小説でもなく、またアニメオリジナル作品でもないという特異な性格のもとに制作されたこのアニメは、主人公と彼を慕う妹達12人が一つ屋根の下で生活をし、その中でのキャラクターごとのエピソードを訥々と連ねていくという、物語性を大胆にも放棄した、いわば極北の妹萌え系ハーレムアニメであった。なお、このアニメは先の定義の項で触れた、上記の要件を全て満たすという稀有な存在の実例でもあり、ハーレムアニメを完成の域にまで高めた世紀の怪作であったと言える。また、このアニメは『HAPPY★LESSON』や『おとぎストーリー 天使のしっぽ』といった二番煎じ的な企画ものハーレムアニメにも強い影響を与えた。
さらに、最近では、エロゲーやギャルゲーをアニメ化することが増えたため、ハーレムアニメも増加の一途を辿っている。というのは、この種のゲームは何人かのヒロイン達がそれぞれ主人公と関係を持つシナリオを用意することでマルチシナリオを構成している場合がほとんどであり、そのアニメ化にあたってはそれぞれのヒロイン達のファンへの配慮から全ヒロインのシナリオをなぞる形で再構成されることが多いためである。つまりエロゲーやギャルゲーを原作とするアニメはハーレムアニメになる蓋然性が極めて高くなるということである(『こみっくパーティー』のTVアニメ版はこの傾向の数少ない例外であった。)。現在のアニメのネタ(原作)の払底ぶりとそれに伴うエロゲー等を原作とするアニメの増加傾向を勘案するに、今後ますますこの種のハーレムアニメも増加する傾向にあるといえる。
典型的展開
ハーレムアニメはその性格上物語性が希薄であることもあり、展開のパターン化が他のジャンルのアニメと比べて著しい。もちろん、全てのハーレムアニメがこのような展開を持つというわけではないが、大抵の作品では当てはまるといって差し支えない。
序盤
この段階では、作品の背景とキャラクターの紹介を行う。まず、主人公と筆頭クラスの女キャラが登場して作品の設定の大まかな説明を行い、その後ハーレム構成員の女キャラの紹介が立て続けに行われる。ただし、筆頭クラスの女キャラについては掘り下げた紹介がされることが多い。ちなみにこの展開はマルチヒロイン式のエロゲーの展開に酷似している。なお、この段階では、筆頭クラス以外の女キャラは主人公とは顔見知り程度という位置付となる。
中盤
この段階では、ハーレム構成員の女キャラそれぞれを掘り下げて紹介することになる。基本的には当該女キャラと主人公によるエピソードとなり(筆頭クラスの女キャラは主人公に随伴する形で登場する場合もある)、女キャラの生い立ちや性格を紹介しつつ主人公と若干関係が進展するようなものとなることが多い。これは俗に(各女キャラの)「 お当番回」と呼ばれる。この「お当番回」は、アニメの放映期間に応じて数回に及ぶことがある。なお、「お当番回」間の辻褄は通常あまり考慮されることはないが、その度合いが特に酷い場合は、主人公が女キャラに手をつけては放置する(捨てる)という展開になってしまい、実際にそのようなアニメ(Kanonなど)は存在する。
また、この段階では、主人公とハーレム構成員が総出で旅行に行くというエピソードが挟まれることもある。この場合海水浴か温泉に行くことが多いが、これは水着や裸を見せるという視聴者向けサービスの一環である。
終盤
この段階では、物語を盛り上げ締めくくるため、急展開を見せることとなる。また、時として予想もつかない展開を見せることもある。
しかし、元々ハーレムアニメは主軸となる物語性が乏しいため、そのままでは物語に起伏をつけることは難しい。そのため、終盤において大事件を引き起こすことによって、それを補おうとする傾向が強い。その方法は、穏健なものではハーレムの崩壊をもたらしかねない三角関係の発生等(※)の事件であるが、過激なものではキャラクターの一部が実は宇宙人でした、未来人でした、遠い過去から生き続けていました、などという突拍子もない種明かしに始まる、それまでの展開と全く関係のない筋からの展開によって無理矢理大事件を発生させるというものになる。ちなみに、このような過激な展開を持つハーレムアニメはかなり多く、これらは俗に理解困難な「超脚本」·「超展開」を持つ作品などと呼ばれ揶揄されることがある。
なお、このような大事件は主人公がその解決に尽力し、また、それを通じて女キャラの一人と若干関係を進展させることで、物語を盛り上げつつ終了させる場合が多い。定義の節で主人公が重大な局面において活躍するとあるのは、このような主人公の活躍による事件の解決という展開が多いことに密接に関連している。
ただし、終盤に至ってもなお中盤と同じような展開を繰り返す筋金入りのハーレムアニメも若干ながら存在している。言うまでもなくこのようなアニメの物語は最後まで展開することはなく、ハーレムが最後まで維持されることになる。
(※)最近では、新たな傾向として、筆頭クラスの女キャラが女にだらしない主人公に対して自分との関係をハッキリさせるよう強く迫る(これは俗に「問い詰め」と呼ばれる)という展開を挿むことで、物語をより盛り上げようとするものが登場している。
女キャラの典型的属性
ハーレムアニメに登場する女キャラの典型的な属性は以下のとおりである。なお、作品によってはこれらの属性をいくつか兼ね備えた女キャラが登場することもある。
清純派
明るく優しく清楚で、その上一途に主人公を慕っているというオタクの理想像を地で行く女性であり、多くの場合ハーレムの筆頭を担うタイプ。一途に主人公を慕う幼馴染という立場に立って、最初から主人公に対して積極的にアプローチしてくる場合も多い。ベタベタの学園ものハーレムアニメにおいて、幼馴染という名目で朝に主人公を迎えにきて起こしてやったりするようなキャラは大抵の場合このタイプである。なお、最近ではこのタイプのキャラを他のハーレム構成員に対する嫉妬を燃やす女性として描くこともあり、その場合は「黒○○(○にはキャラ名が入る)」と呼ばれる。
勝気(男勝り)系
勝気で積極的な性格であり、それ故に男勝りな側面を持っている場合が多い。このため、主人公とは男友達のような付き合いをしているか、だらしない主人公に干渉してそのままずるずる付き合っているかのどちらかで登場する場合が多い。上記清純派キャラのライバルとして登場するのは大抵がこのタイプであり、また清純派の代わりにハーレムの筆頭を務めることもある。
お嬢様
金持ちで上品かつ世間知らずという現実には希少な属性を持つことから、清純派と並んでオタクの妄想を掻き立てる特徴を備えたタイプである。性格は高飛車であるか大和撫子であるかのいずれかである。前者の場合においてはそれを屈服させるカタルシスを、後者の場合は偶像化された女性の理想像を愛でることを、それぞれ楽しむことができる。
お姉様
主人公を含む主要キャラより若干高い年齢設定を与えられたキャラであり、主人公に対しては弟や可愛い坊やとして接していることが多い。また、成熟した女性としてハーレムのお色気担当を担わされる場合も多い(この場合は若干壊れた性格を持つ場合がほとんど)。なお、この種のキャラは学園ものハーレムアニメでは大抵の場合教師として登場する。
天然ボケ系
文字通りハーレムのボケ担当で、何をやっても今ひとつなドジっ娘である。ハーレムアニメの主人公はこのような女性に対しても優しく接することから、このタイプのキャラは主人公の優しさに心を惹かれてハーレムに参加するようになる場合が多い。現実にはこのような属性を売りにする女性が滅多にいないこともあって、一部のオタクの強い支持を受けている。
ロリ系
幼さを全面に打ち出し、子供っぽい言動を特徴とするタイプ。外見的にも低身長・未成熟という子供のような容貌であることが多い。大抵の場合は兄を慕う妹のように主人公に懐いている。ロリ属性は言うまでもなく多くのオタクに対する強烈なアピール力を持つことから、ハーレムアニメにおいてこの属性を備えたキャラは半ば必要不可欠な要素である。
ミステリアス系
寡黙、消極的かつ暗めの性格、真意が分かりにくい言動等を特徴とするタイプ。大抵は孤独な状態で登場し、主人公がおせっかい的な干渉をすることにより感化され、ハーレムの輪に参加するようになる。この類のキャラは、その原型である綾波レイの影響が色濃く、髪や肌の色が白っぽいという不健康そうかつ薄幸そうな容貌をしていることが多い。また、ストーリー上のキーパーソンを務めることもしばしばある。
代表的なキャラクター
清純派
月宮あゆ(Kanon)(他天然ボケ系属性あり)
水瀬名雪(Kanon)(他天然ボケ系属性あり)
涼宮遙(君が望む永遠)
神岸あかり(To Heart)
藤枝保奈美(月は東に日は西に ~Operation Sanctuary~)
桜庭葵(藍より青し)(他お嬢様属性あり)
キンギョのラン(おとぎストーリー 天使のしっぽ)
可憐(シスター·プリンセス)
鞠絵(シスター·プリンセス)
ベルダンディー(ああっ女神さまっ)
宮間夕菜(まぶらほ)
益田西守歌(Φなる・あぷろーち)(他お嬢様属性あり)
勝気(男勝り)系
速瀬水月(君が望む永遠)
涼宮茜(君が望む永遠)(他ロリ系属性あり)
魎呼(天地無用!)
衛(シスター·プリンセス)
鈴凛(シスター·プリンセス)
四葉(シスター·プリンセス)
渋垣茉理(月は東に日は西に ~Operation Sanctuary~)
白鐘沙羅(双恋)
お嬢様
倉田佐祐理(Kanon)(他天然ボケ系属性あり)
桜月キラ(双恋)
阿重霞(天地無用!)
春歌(シスター·プリンセス)
亞里亞(シスター·プリンセス)
鳳つばさ(W~ウィッシュ~)
大空寺あゆ(君が望む永遠)
お姉様
仁科恭子(月は東に日は西に ~Operation Sanctuary~)
三世院やよい(HAPPY★LESSON)
咲耶(シスター·プリンセス)
ウルド(ああっ女神さまっ)
芽生百合佳(Φなる·あぷろーち)
天然ボケ系
乙姫むつみ(ラブひな)
水無月妙子(藍より青し)
タヌキのミドリ(おとぎストーリー 天使のしっぽ)
白雪(シスター·プリンセス)
花穂(シスター·プリンセス)
水越萌(D.C. ~·カーポ~)
ロリ系
沢渡真琴(Kanon)
橘ちひろ(月は東に日は西に ~Operation Sanctuary~)
水無月ちか(藍より青し)
砂沙美(天地無用!)
雛子(シスター·プリンセス)
雛菊るる(双恋)
雛菊らら(双恋)
スクルド(ああっ女神さまっ)
芳乃さくら(D.C. ~ダ·カーポ~)
ミステリアス系
川澄舞(Kanon)
美坂栞(Kanon)
来栖川芹香(To Heart)(他お嬢様属性あり)
月代彩(Wind -a breath of heart-)
千影(シスター・プリンセス)
岸田智(W~ウィッシュ~)
二ノ舞きさらぎ(HAPPY★LESSON)
主なハーレムアニメの一覧
ああっ女神さまっ
藍より青し シリーズ
Wind -a breath of heart-
AIR
エイケン
おとぎストーリー 天使のしっぽ シリーズ
下級生 シリーズ
Kanon
GIRLSブラボー
君が望む永遠
グリーングリーン
サクラ大戦 シリーズ
シスター·プリンセス シリーズ
真月譚 月姫
住めば都のコスモス荘 すっとこ大戦ドッコイダー
D.C. ~ダ·カーポ~
W~ウィッシュ~
月は東に日は西に ~Operation Sanctuary~
DearS
天地無用! シリーズ
To Heart シリーズ
同級生2
HAPPY★LESSON シリーズ
HAND MAID メイ
花右京メイド隊 シリーズ
Piaキャロットへようこそ!! シリーズ
Φなる·あぷろーち
双恋
MOUSE
まぶらほ
魔法先生ネギま!
まほろまてぃっく シリーズ
ゆめりあ
らいむいろ戦奇譚 シリーズ
LOVE♥LOVE?
ラブひな