剣心: 見られた!どうする。口を……封じるのか。
巴: 血を…止めないと、はっ..あ…….
剣心: この匂い……
第二幕 迷い猫
花売り: 花いりませんか~ お花どうどす~
花いりませんか~ お花どうどす~
女将: おや、緋村はんどすか。お帰りやす。
剣心: お女将さん、部屋をお願いします。
女将: 長州藩は世話しをすんな~ 人斬りのあんたおんなごしですか。
剣心: 早く部屋を。
女将: 今はいっぱいどす。空いとる部屋なんかへんずあらしまへんえ。うちは出会い茶屋と違いますんや。緋村はんのお部屋をどうぞ。今お湯と替えの服を用意しますようで。
女将: ん?!
剣心: 終わりましたか。助かりました。
女将: いいえ。それより、これ。どうなんします。
剣心: おい。もういいのか。
巴: すみません、酔っていました。
剣心: ん?
巴: なんだかお世話になったようで、酔っていたんです。
剣心: 名は。
剣心: 巴と申します。雪代巴。
剣心: 酔っていた?
志士甲: んあ。
巴: はい。
志士甲: ん、あんた新顔じゃの。
巴: 巴と申します。
志士乙: お~お、見ろ。この別品よ。
巴: 以後お無私両機を。
飯塚: よ。あの女緋村君が連れ込んだそうじゃないか。どこで拾った、上玉じゃないか。あれは訳有りだなあ。でどうだった、味は。
剣心: え?
: 女将に聞いたぜ。泊めたんだろ、お前さんの部屋に。
志士: 嚇かすなよ、種呑み込んちまった。無粋なやつだな。
剣心: だから、は……
巴: なんです。
剣心: 昨夜見たことを、一切忘れてここを立ち去ってもらいたい。
巴: ここにいては迷惑ですか。
剣心: 家の者が心配するだろう。
巴: 迷い猫。
剣心: ん?
巴: 帰れる家があれば、夜更けに一人でお酒なんか。血、もう止まりましたか。よかったですね。
剣心: あなたのでしょう。
巴: ええ。
剣心: 京の町はぶっそうだ。こんな物は役に立たない。速く帰るところを探すことだ。こんなものの必要のないところを。
巴: 人斬りのいないところを。
剣心: ん?!
巴: ですね。
女将: 迷い猫。
剣心: ええ。雇うんですか、あの人を。
女将: 何言うってはんの。あの子を連れてきたんは緋村はん違いますか。
剣心: 昨夜は、ただの行き掛かりで。
女将: 長州藩にはご便宜にさしてもろって、この小萩屋はほん、あり難い事で、けどお蔭で猫の手も借りたいぐらい忙しゅうで、あんさんがようか分かりやさかいなあ。見たところよう働くし、そんなこんなでまあ、京び人に聞かれたない過去の一つや二つ、誰かっておもすやろ。
飯塚: よー、ここか。
剣心: なんです。
飯塚: 桂さんと片貝さんが来てる。
剣心: これで少し、目元がやらこ(柔らかく)なるのやろか。
桂: 今のは。
片貝: あれがうわさの。
飯塚: そうですよ。
剣心: 飯塚さん!
桂: 白梅香の香りがしたな。
剣心: 桂さん!
桂: 別に悪いとは言っておらん。飯塚、念のため素姓だけは調べておけ。
飯塚: はい。
片貝: 緋村。
剣心: 何か。
片貝: 別に、あの女のことで来たわけでもないですが、昨夜、人を斬ったな。
剣心: ええ、手初どおり。
片貝: その帰りに、闇討ちに遭ったな。
剣心: ん?!
飯塚: 始末するのにしたよ。
飯塚: 悪く思うな。外にいる目が離せません。
桂: 何者だったんだ。
剣心: 恐らく幕府側の刺客。
片貝: 新撰組か。
剣心: いえ。初めて見る邪険でした。どちらかと言えば、
桂: 庭番衆の探類。
剣心: ええ。
片貝; 緋村の存在はごくうちうちの者しか知らん。それを待ち伏せするとは。
剣心: 藩内に、裏切り者が?!
桂: そういう事になるな。事が大きい、調べはこちらでやる。お前たちは新撰組に気お付けろ、いいな。
衆: はい。
桂: 緋村。
剣心: はい。
桂: そろそろ春も終いだな。
剣心: あ?
桂: 石榴の花が咲いている。